某重要案件

「お前、俺に挿れたいだろ?」

ノリス・カルナック中尉がこの問題発言を発したのは、彼が『定例会議』と呼んでいる場でのことだった。この会は彼が実質的なナンバー2となっている中隊において、中隊長と彼とが様々な案件について話し合うというものだから、彼がいう『お前』は自ずと一人に定まる。

「ん・・・え?いや、挿れ、え、お前・・・。」

『お前』に当たる人物−ディムロス・ティンバー大尉−は、彼の発言が即座には理解出来なかったようで、一瞬だけ怪訝な表情を浮かべた後で髪色とは対照的な赤に頬を染めた。その赤は、彼がノリスの発言を狼狽えながらも理解したことを証明している。

「落ち着けよ。」
「無理がある。」
「興奮すんなって。」
「していない。」
「まだ?」
「そういう話ではなく。」

二人が初めてキスをしたのは少し前のことで、お互いの身体にこれまでとは違う意味で触れるようになったのはそれから暫くしてからで、ノリスが「意外と大丈夫なもんだな」と言いながらディムロスの精子を飲んだのは、つい最近のことだった。

「お前、たまに俺の尻見てるだろ。」
「見ていない。」
「ほんとに?」
「・・・と思う。」
「弱腰だな。」
「自信がなくなってきた。」

視線を泳がせるディムロスを見て、ノリスは笑みを浮かべた。彼のこういう嘘が吐けないところがノリスは嫌いではなかったし、その性質が自分の前ではより強く出るという傾向にも満足を覚えていた。

「見ても良いけどさ。減るもんじゃなし。」
「それは自分で言う台詞だろうか。」
「良いじゃねーかよ。」

弱気になったことで思考力を取り戻したディムロスが、ノリスの発言に冷静な疑問を呈したものの、本人は聞く様子がない。

「見られて悪い気はしないしな。」
「そういうものか?」
「お前に求められるのは気分が良いよ。」

ノリスは、彼らしからぬ照れ隠しのような笑い方をした。少し頬が引き攣り、声が乾いていることは本人も気付いていて、だからやや大きめな溜息で自らそれを打ち切った。そして、覚悟を決めたような顔付きで続ける。

「昨日久々に自分でした。」
「は?」
「お前とセックスするって思ったらいい歳して興奮した。」
「・・・。」
「なんだ?引いたか?」
「頭の整理がつかない。」

正直な奴だな、とノリスは改めて思った。明け透けな態度で誘っている自分自身に、傍目にはそう見えないものの興奮してもいた。

「難しい話はしてないだろ。」
「そうだな。」
「で、据え膳あるけど、どうする?」

ディムロスは言葉よりも態度で示すタイプの人間だった。ぐっと抱き寄せられ、ディムロスの胸板に顔を埋めた時、ノリスは何故かあるべき場所に収まったような、そんな安心感を覚えた。







ノリス・カルナックは重要な要件への準備には手を抜かない方だった。今回について言えば、彼は恋人を体内に迎え入れるために十分に準備をしたつもりだった。

「痛い痛い痛い。馬鹿。ふざけんな。」

しかし、いくら準備をしてもどうにもならないということはある。彼の身体は異物の侵入に対して常識的な反応を示した。内蔵が潰されるような猛烈な痛みが彼を襲っていたのだった。

「大丈夫か?」

ディムロスの声はやや上ずっていた。勿論ノリスを心配していたが、快感が余りに大きかったのだった。それは粘膜の刺激という物質的なものは勿論だが、目の前の男を自分が征服しているという精神的な部分の快感も含まれていた。

「大丈夫に見えるか?」
「いや。お前のそんな顔は初めて見た。」
「お前のそんな顔も初めて見たよ。」

これは大変なことになりそうだ、とノリスは思っていた。自分がこれだけ痛がっても一向にディムロスは萎える気配がない。それどころか、ますます興奮しているようにすら見える。

ディムロスは自分のことをどちらかと言えば優しい人間だと思っていた。恋愛でも、相手を暖かく包み込むような役割を果たすことが今までは多かった。こうしてある種の嗜虐的な喜びを感じるのは初めての経験だった。

「自分でも驚いている。加減出来そうにない。」
「さらっと怖いこと言うなよな。」
「止すか?」
「馬鹿。誘ったのは俺だぞ。」

脂汗を流しながら、ノリスは辛うじて笑みを浮かべた。まだディムロスが自分の中に入っただけ、でしかないことは理解している。これが動くのかと思うと考えることさえ恐ろしかったが、痛みから逃れることよりも大事なことが彼にはあった。

直腸の奥まで入り込んでいたディムロスの一部がゆっくりと出ていき、再び入ってくる。ノリスは必死に痛みに耐えた。

「すまない。」
「そんな、良さそうな顔で、謝んな。あっ。」
「いや、これからもっと痛くしてしまいそうだから。」
「え、ちょっ、がっ、痛っ、ふ、ざけんなっ。」

ディムロスの動きがだんだんと速く、力強いものに変わっていく。それと共にノリスの口から漏れる言葉にも余裕がなくなっていった。生理的な涙で視界が潤む。

「ぜっ、たい、あとで、ぐあっ、半殺しに、して、やる。」

荒い呼吸の合間に、ディムロスがノリスの名を呼び、痛みに強張る身体を撫でた。その声と手つきは相手に与えている痛みとは対照的に優しく、表情は幸せそのものだった。

「あぁ、くそっ、この、やろっ、ふざけんなっ。」

ノリスは、自分を抱くことで目の前の男が幸せになっているという事実を全身で感じ、本人はそこまでのマゾヒスティックな、或いは自己犠牲的な性質は持ち合わせていないつもりだったのだが、迂闊にも幸せを感じてしまっていた。







ディムロスが短い呻きとともに、ノリスの中に精を放ったのはそれからすぐのことだった。糸が切れたように身体から力が抜け、先程とは逆にノリスの胸に顔を埋める形になる。二人とも息が荒かった。

「良かったか?」

勿論、肯定の返事を期待する問いかけだった。しかし万一にでも否定されたらすぐにでも殺してやるつもりだった。

「ああ、良かった。」
「そりゃ、男冥利に尽きるよ。」

本心からの気持ちだった。求められ、その役目を果たせたという達成感は大きかった。性的な快感はまだ感じられなかったが、精神的な部分はかなり満たされていた。

「これって、慣れるもんなのか?」
「そういうものらしい。」
「へー。」

この男に段々と自分の身体が開かれて行ってしまうのか、と思うと興味深くもあり、怖くもあった。これに性感まで加わってしまったら一体どうなってしまうのだろう。完全に躾けられてしまったら力関係が逆転してしまいかねない。いや、もしもそうなったらそうなったで別段・・・。

「ノリス?」
「あ、ん?」

呼びかけに気付かなかったらしい。調子が狂っているのかもしれない。ディムロスに主導権を握られてされるがまま、というのは彼の生きてきたなかで経験がないことだった。

「大丈夫か?」

労いと後ろめたさが含まれた問いかけだった。何か異常があると心配している訳ではないのだろうが、ディムロスは胸に耳を押し当て、ノリスの心音を聞いていた。

ノリスは少し返答を思案して、自分の大して逞しくもない胸が受け止めているディムロスの頭を抱き締める。黙っていると自分の、やっと落ち着いてきた心音が聞こえてきた。この音を二人一緒に聞いているというのは悪くないように感じられた。

「意外と。」
「ん?」
「意外と、大丈夫なもんだな。」

誰にも見られていないのを良いことに、彼は今までしたことがないような優しい表情をしていた。











あとがき
体調を崩す前の数日間、毎朝微睡みながら見ていた淫夢がこんな感じだった。淫夢にしては色気のないですよね、ノリスの言葉ww



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