私は帰路を急いでいた。 帰路と言っても、執務室から廊下を早足で抜けるだけ。 歩いたって十分とかからない距離。
軽快な靴音が響き、いつもよりやや速めなリズムを刻む。 急ぐには訳がある。 今日は、部屋に人を待たせている。
「すまない、遅れた。」
息を弾ませて、ドアを開ける。 向こうは合鍵を持っているから、ドアは開いていた。
しかし、ドアの向こうの光景に私は固まってしまった。
「おかえりなさい。」
「遅かったな。」
迎える声が、同時に二つ。 私の脳裏に、一瞬で人間の顔が二つ走った。 そして、私はその場で凍りついた。
三人掛けのソファーの両端に、一人ずつ。 対のアメジストと黒真珠が一組ずつ、私を見ている。
どうやら、間に私を座らせたいらしい。 四つの瞳が、此方を冷たく見ていた。 勿論、勧め通り座るほど豪胆ではない。 その場で首を横に振る。
「じゃ、其処。」
例の漆黒の瞳を揺らしながら、ノリス=カルナックは手前の椅子を指し示す。 指示されるまま、仕方なく私は腰掛けた。 二人とも、妙にニコニコしている。 はっきり言って、気味が悪い。
カーレルが、笑顔のままポケットに手を入れた。 危ない物かと思ったが、予想外にそれはただの箱だった。 それも、手の平サイズの紙の箱。
冷や汗が出た。 彼が取り出したのは、煙草の箱。 普段、人前じゃ吸わない彼が吸うって事は・・・。 と思いつつも、逃げられず固まっていた。
彼が箱から煙草を取り出し、軽く咥えて火を点す。 と・・・その時。
「基地内の個室は禁煙だ。」
不機嫌そうな声で言うより早く、ノリスは剣を抜いた。 その瞬間には、煙草は唇擦れ擦れの所で斬り飛ばされていた。 ノリスお得意の、目にも止まらぬ居合抜き。
「屋内の抜刀も禁止されています。」
口元に残った切れ端を吐き捨てて、カーレルは釘を刺す。 表情に笑みはなく、人形のように整った顔が動かない。
明らかな険悪ムード・・・出来れば逃げたい。 私は重い空気に耐え切れなくなってきていた。 気づかれないように、静かに一歩後退る。
「「待て。」」
あー・・・やっぱりね。 逃がしてくれないとは思っていたけれど、ダメかぁ。 苦笑しつつ、二人を見る。
互いに「何故お前が居るんだ」と言った様子で睨み合っていた。 と、同時に視線は私へも送られている。 スケジュール管理は得意なつもりだったのだが、まだまだ甘かったようだ。 今日は、カーレルを呼んだはずだった。 が、しかしどうやらノリスにも声をかけていたらしい。
がしっ。 文字で表すならそんな感じで、ノリスが私の襟首を掴む。 いつの間に後ろに回っていたんだ? 彼の表情には、かすかな笑み。 さっきまでの不機嫌さとは一変してはいたが、これはこれで・・・。
「私達片方ではとても満足出来ない、と言う訳ですね?」
私の首筋をを指先でなぞり上げ、カーレルも笑む。 如何にも作り物っぽい優しい笑みに、私は苦笑を浮かべるしかなかった。 これって・・・やばい?
そんな思いは、ノリスに抱えられてベッドに下ろされ、なお一層強くなる。 上半身はカーレル、下半身はノリスが抑えた。 え・・・本気ですか? そう思った時には、二人の手が上下から私の服の釦をはずし始めていた。
「えっ・・・ちょっと・・・。」
本気でやばいと思い始めて、ついに声を上げる。 流石に、ちょっと二対一は辛すぎる。 私だって三十代も半ばに差し掛かって若くないんだ。
「えっ・・・あっ・・・ちょっと待っ・・・・。」
「「何?」」
何事も無いかのように、息を揃えて答える二人。 先程までと打って変わって、上機嫌に此方へ微笑んでいる。
私はただ、苦笑いをすることしかできなかった。
・・・・明日、身体動くかな・・・・。
「んっ・・・見るんじゃ・・・ない。」
声とともに、イクティノスの非難の視線を浴びる。 しかし、力無くベッドに突っ伏して腰を揺らしながらでは、ただ興をそそるだけ。
カーレルが強く突き上げる度、声を堪えてイクティノスは仰け反る。 傍目からそれが面白く、さっきから専ら見る方に専念していた。 香色の少し長い髪を振り乱し、俺から必死に顔を背ける。 かと思えば、縋るような目で俺をじっと見る。
今更、俺に見られ恥も何もあるまい、とは思うのだが。 どうやら彼にとっては恥ずかしいらしい。 顔から爪先までを薄赤く染めて、見るなと言い続けている。
「困った奴だ。」
そっと顎を掬って、背けた顔をこちらへ向かせる。 羞恥と快感に潤んだ瞳が、髪よりも黄の濃い茶色に光っている。 半開きの唇が誘うように艶やかで、奥には赤い舌が覗いていた。
「くっ・・あっ・・んんっぁ・・・。」
熱い吐息と共に、喘ぎが漏れる。 上を見ると、カーレルが冷たく笑っていた。 笑みの相手が俺なのは、重々承知。 あれで意外と独占欲が強い奴だから、なかなか扱いが難しい。
上からの冷笑を柔らかな微笑で避け、視線を外す。 朧な丁子色の目は、未だ俺をぼんやりと見ていた。 鼻にかかった声の嬌声を、聞きながら俺は首筋を舐めてやる。 一々、初心なガキのように反応する様が浅ましいながらも、愛おしくも思った。
絶え間なく漏れ出る喘ぎを、唇を重ね吸い取ってやる。 深い深いキスの間、上からの視線を感じた。 カーレルの奴、此方を見ている。 奴もそれが分かるのか、一層頬を染めながら舌を絡めてくる。
「ん・・・あぅん。」
唇を離すと、銀糸の橋が二人の間に架かって伸びる。 物欲しそうな締りの無い口に、溶けるような焦点の合わない目。 歯止めの利かない子供じゃないが、堪らなくそれに欲情する。
それをイクティノスも察したのか、覚束無い手で俺の自身を引きずり出す。 芸術家のような、細く白い指がそっと這う。 赤い舌が小さな焔のように、情欲を屠る。
「あくっ・・うんっあっ、ああああっ。」
忘れていた後ろからの激しい刺激に、イクティノスの手に力が込められる。 俺を強く握り締め、熱い吐息がかかる。 視線を上げると、意地悪くカーレルが笑っていた。 ったく、妬いてる妬いてる。 モテる男は大変だなイクティノス。
思いつつ、荒く息をつき開かれた口に自身をねじ込む。 小さな頭を押さえつつ、そっと撫でてやりながら。
得意げに笑って見上げると、カーレルは含みを持って笑っていた。 おもむろに、彼が少し強くイクティノスの自身を掴む。 放って置かれたにも関わらず、立ち上がっている其処。 愛撫に対して敏感に反応を返してイクティノスを乱れさせる。
「あっ・・痛っ・・・・。」
咥えていたイクティノスの歯が当たる。 思わず声が出た俺を、カーレルは見下すように笑った。
「っつ・・・この。」
腹が立った。 咥えさせたまま中腰になって、カーレルの胸倉を掴んで引き付けた。 アメジストの瞳が、急なことで驚いたように揺れる。 その唇に、噛み付くようなキスを落とす。 抵抗も忘れて、ただカーレルはキスを受け、されるがまま。
「やっ・・・んっ・・あっ・・・うんっ。」
イクティノスへ腰を打ちつけながら、カーレルは頬を赤く染めて息を漏らす。 必死で顔を背けようとするのを逃がさない。 次第に、奴の息が荒くなる。 綺麗な赤紫の瞳で俺を睨みながら、カーレルはイクティノスの中で果てた。
「ああっ・・あぁぁぅうっ、あぁぁんっ。カー・・・レルっ・・熱・・・いぃ。」
同時にイクティノスも限界を迎える。 咥えていられなくなり、俺のを吐き出して叫んだ。 散々突かれた末に、中の熱さの刺激で背が弓のように仰け反る。 二度三度身震いして、弾き出すように白濁を零した。
そのままぐったりと、イクティノスは倒れて荒い息をつく。 ずるりとカーレルが自分を抜いて、ベッドに横になった。
「アレは反則。」
カーレルが照れたように眉間にしわを寄せて言った。 俺は笑って取り合わない。 溜息が一つ。 カーレルは自分の服を手早く直し、ベッドから降りる。
俺はどうしたものかと、その後姿を見ているだけだった。 その視線に気がついてか、彼が振り返り笑う。
「私はお暇しますよ。次は私のみが危ない。」
冗談めかしていながらも、まんざら冗談ばかりでは無さそうだ。 俺はそれを鼻で笑って、その背を見送る。
と、下から視線を感じた。 寝転がったイクティノスが、此方を見詰めている。 大分ハッキリした、澄んだ丁子色の瞳で。
「何だ、妬いたか?」
今度は。冗談めかして俺が笑う。 イクティノスは、芝居半分本気半分で不服そうに睨んだ。
行為の最中、俺とカーレルが睨み合っていたのは不満だったらしい。 それに加えて、最後のキス。 空ろな頭でも分かっていたらしく、彼は確認するかのように、俺の唇を強引に奪った。
「まだ出してないでしょう?」
キスの合間に囁かれる。 回復の早さに舌を巻きつつ、俺は彼を抱き締める。 カーレルには悪いが、もう一回。 そもそも、奴が自分から帰ったのが悪いんだ。
「明日動けなくても、俺は責任取らんぞ。」
意地悪く笑んで見せてやると、イクティノスも負けずに微笑む。 艶っぽく、少し黒味のある笑み。
この笑みに騙される若者が、こいつの周りに何人に居るんだろう。 さっきの、アレもそうだろう。 シャルティエだって、多分そう。
あとは・・・・。
あぁ、俺もか。
なんて事を思いつつ。 また俺は、三十過ぎの上司に無理をさせるのだ。
あとがき
ひどいな。 最近裏ばっかだったから、ネタ尽きてらぁ。 しかも、殆んどエロのみ。 ノリス対カーレルの構図に引っ張られましたね。 これも軍師様パワーか?(知らん) 次回は、ミトリク表です。 |