Am I yours,or are you mine ?




「ついに、抜かれてしまいましたね。これでもう、上官面も出来ないか・・・。」



イクティノスは、言っている事と裏腹に嬉々として頷いている。
テーブルのワインを自らグラスに注ぎ、景気良く飲み干した。
いつもより、彼は随分と陽気な様子。



「あの小さかった子が、地上軍軍師カーレル=ベルセリオス中将か・・・。月日の経つのは速い。」



「止して下さいよ。仕事外でそう呼ばれるのは、ちょっと・・・。」



ニコニコと笑い続けるイクティノスの視線の先には、恥かしそうに微笑むカーレルがいる。
真新しい軍服に中将の階級章が、眩く光っていた。




カーレルは今年で21歳。
入隊が16歳だったから、4年目になる。
イクティノスとは入隊よりも前、10代の前半に出会って、もう10年近い付き合いになる。
10歳の差がありながら、二人は兄弟のように仲が良かった。



「私が21ですから、兄さんももう・・・。」



カーレルは今でも二人きりになると、彼を<兄さん>と呼んでいる。
深い尊敬と親愛の想いを込めて。



「そうだ、もう私も立派な三序Hだよ。」



年齢の話をされて、不機嫌そうにイクティノスは答えた。
若く見える彼も年齢が気にならない訳ではないと言う事だろう。
しかしその後、イクティノスはすぐに笑顔に撫橇戻し、言葉を続けた。



「でも、いつかカーレルが大人になったら一緒に酒を酌み交わしたいと思っていたんだ。」



立ち上がると足元がふらつき、頬にも赤みが差してきたイクティノス。
だいぶ出来上がってきた様子の潤んだ目で腕の時計を見る。



「いけないな、もうこんな時間だ。」



時計の針は、とうに12時を回っている。
もう6、7時間もすれば、山積みの仕事が二人を待っている。
残念そうに、溜息をつくとイクティノスはおぼつかない足取りで、席を立った。



「残念だが、昇進祝いは此れ位にしよう。私はもう帰って寝る事にしますよ。」



カーレルも自分の時計を見て、それからイクティノスを見つめた。
いつもは白く、熱を感じられない肌にはほんのりと赤みが差し、隙の無い威厳ある姿は、全く無防備なものに変わっている。




「泊まっていきません?」



「えっ?」



突然の提案に、イクティノスは呆気にとられ聞き返してしまった。
カーレルは微笑んでゆっくりと立ち上がり、イクティノスの手を取る。
しなやかな細い手が、煽情的な紅い色に染まったいた。



「兄さん、良く泊まりに行っていたじゃないですか。誰かの部屋に。」



その言葉に、イクティノスの顔から血の気が失せた。
微笑を崩さないカーレル。しかし、その眼は射抜くように鋭かった。
冷たいものがイクティノスの背筋を走る。



「いつも違う人のところでしたよね。毎日毎日、夜になると廊下を歩く兄さんの足音が聞こえました。」



そう言いつつ、カーレルはイクティノスのか細い腕を引き、抱きすくめた。
腕の中でもがき、抵抗をするイクティノス。
しかし、身長はとうに越され、力でももう敵わない。



「早く大人になりたかったです。大好きな兄さんが誰かと寝ているのが許せなくて。」



「いけない、カーレル。やっ、止めな・・・んっ。」



弱々しく抵抗を続けるイクティノスの唇を、カーレルは強引に奪って黙らせた。
もう、力ない腕の抵抗も無くなり、ただ切れ長の眼から涙が零れるばかり。
唇を離して、きつく抱いてきた腕から解放してやると、イクティノスは糸が切れた人形のように、カーレルへ倒れこんだ。



「ダメ・・・カーレル。私は・・・。」



肩で息をしながら、イクティノスはうわ言のように繰り返した。
そんな彼を、カーレルは再び抱き締める。
今度は柔らかく包み込むように。



「私は10年も待ったんですよ。私の物になってくれてもいいでしょう。イクティノス。」



耳元で熱い吐息と共に、囁かれる言葉。
初めてカーレルは<イクティノス>と呼んだ。
彼の言葉に、胸の中のイクティノスの鼓動が、速くなっていく。



「いけない・・・止めなさい。カーレル、カーレル・・・カーレ・・・。」



<兄さん>の言葉は、もうカーレルの耳には届いていなかった。
























吹雪の夜に、雪原を彷徨っていた少年は、もう居なかった。
彼はもう、居ない。
此処に居るのは、私よりもずっと頭が良くて、ずっと狡くて、ずっと素直な青年。












「もっ・・・やっ・・・・んんっ・・・。」



快感に気が遠くなりそうになりながら、イクティノスは半開きの口から喘ぎを洩らしていた。
目も前には、自分を抱くカーレルが居る。
10年も彼を思い続けたカーレルが居る。
そう思うと、たまらなかった。



彼の名に、肩書きに、人格に傷がつく。
そう思って、自分の想いなど封じ込めていた。
だから、必死に抵抗した。



「くっ・・・そこっ・・・・・・イイッ・・・。」



しかし結局は、こうして嬌声を上げている自分にイクティノスは腹が立った。
自分から言えば良かった。
そうすれば、彼にこんな事をさせずに済んだのに・・・。



そんな、イクティノスの想いは遠く、遠く、あの吹雪の夜の雪原の果てへと消えていきました。



後には、唯々燃えるような身体が残るばかり。

もう、彼の物になってしまった身体が。























夜が明けて、眩しい曙光が二人を照らす。
強い光に手を翳し、カーレルが起き上がった時には、もうイクティノスは起きていた。
昨夜の痴態を微塵も感じさせない、いつものイクティノスが其処に居た。



「おはよう・・・ございます。兄さん。」



少し気まずそうにカーレルが言う。
流石に昨日はやりすぎたと思っていた。
思った通り、凍りつくような視線が向けられる。



「おはようございます。それと、兄さんはもう止しましょう。」



「はっ・・・はい。その・・・昨日は・・・・。」



言いかけたカーレルに、イクティノスは深く唇を落とす。
そのまま押し倒されるかと思うほど、強引で唐突だった。
すっと唇を引くと、荒い息をつくカーレルをイクティノスは上目遣いに睨み付けた。



「貴方の物にはなりません。貴方を私の物にします。」



そう言って、再び深いキスを落としイクティノスは颯爽と去っていった。






貴方が望んでくれるなら、こんな私で良ければ捧げよう。

貴方の想いを受け入れよう。

返す言葉に積年の想いを込めて。

甘い受け入れの言葉を、氷の針で包み込んで。




貴方は知らないでしょう。

私もずっと想い続けていたなんて。








あとがき

雪様に捧ぐ。
初めてのカーイクでしたが、如何だったでしょう。
GWを目一杯懸けて・・・と思ったのですが、相変わらずの拙速振り。
どうもすみません。本当に。(汗々)


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