|
A Bloody Bloody Little War
血まみれの 残虐な 忌々しい 或いは、くそったれの ひどく小さな戦争 付. 「ハロルドを配置したのは正解でしたね。」 「君が、保安局に不穏な動きがある、と言ってきた時には口実かと思ったものだが。」 父と子の憩いの時間にしては、いささか物騒な話題だった。地上軍総司令メルクリウス・リトラーはカーレル・ベルセリオスと頻繁に食事を共にしていた。カーレルはこれを「作戦会議」と冗談めかして呼ぶ。 「情報部を監視させたいという思惑があったことは否定しませんよ。本人はそのつもりだったようですから。」 「イクティノスは良くやっている。あまり情報部への警戒心を出すことには賛成出来ないな。」 「総司令にご迷惑はお掛けしません。」 「頑固に育ってしまったのも私の責任か。」 リトラーは自分の息子に関して殆ど不満はなかったが、唯一の心残りとして、もう少し親の言うことを素直に聞く子に育てられれば良かった、と思うことがある。とは言え、それは世の親ならば誰であれ抱く思いではあるのだが。 「まぁ、来年の人事で君は参謀本部第一部長だ。彼と同格になればバランスも取れるだろう。」 「ありがとうございます。」 ハロルドの方も、あまりリトラーの言葉は聞かないが、兄に比べると素直ではある。先程イクティノスから電話があったが、どうやら関係は改善に向かっているらしい。それをカーレルの前で言えば嫌な顔をするだろうから口にはしなかったが。 「出来れば、仲良くやって欲しいものだな。イクティノスと君が私の両腕なのだから。」 「どちらが右腕ですか?」 これは冗談だったが、カーレルがイクティノスに示す対抗心が、単に政治的なものでないことをリトラーは理解していた。要は嫉妬なのだ。それが理解できれば可愛くもある。可愛くもあるが、可愛いからといって全てが済む問題でもない。 「冗談が過ぎるよ、カーレル。」 「申し訳ありません。」 「最近、私を困らせて楽しんではいないか?」 「否定はしません。」 悪びれない態度に溜息をつく。それを見て、カーレルは機嫌を良くする。模範的な親子の姿ではないなぁ、と思うものの、この関係が出来てしまった責任の半分は自分が負っているのだから、何も言えない。いや、当時カーレルは子供だったのだからリトラーの責任の方がより大きいと言うべきかも知れない。 「もし、私が貴方を困らせているなら。」 左手で頬杖を突いた行儀の悪い姿勢から、カーレルが覗き込むようにリトラーを見た。右手は、そろそろとテーブルクロスの上を這い、リトラーの手に触れる。 「それなら、そうならないように躾けていただければ良いかと思います。」 リトラーの左手の甲に「の」の字を書きながらカーレルが薄く笑った。それを直視出来ず、リトラーは視線を逸らす。二〇歳も下の青年に、あっさり劣情を刺激される自分が情けない。 取り敢えず、今夜は『ごめんなさい』と言わせることにしよう。 付二. 「ってこと、ありましたよね?」 ソファーでくつろぎながら、今となってはひどく懐かしい話を彼にする。懐かしいと言っても四年しか経っていないのだが、随分昔のことのように思える。 「何だよ、急に。」 「今日、シャルティエが、たまたまビルの前を通りかかったらしくて、それで思い出したんですよ。」 「余計なことを・・・。」 彼との関わりが増えたのはその後すぐからだった。いつの間にかと言うべきが、知らず知らずと言うべきか、私達は深い仲になってしまって、いや、もう少しはっきりした言葉を使っても良いのだけれど、どうしても私は慣れないのだ。 「あの頃は随分嫌われてましたよね。」 「そうだな。」 あまりその話題には触れて欲しくないのか、ぞんざいな応答だった。しかし、昔の話をして相手をからかえるのは年長者の特権だと思う。 「敵扱いでしたし。」 「そこまでは言ってねーって。」 「撃たれそうになりましたしね。」 「それは悪かった。」 「今のところは、とか言われましたし。」 「止せよ。」 「今思うと、可愛かったですけどね。」 「だから、止せって。」 彼の声が大きくなった。怒っている様子はない。昔の話をされて恥ずかしかったのだろう。不機嫌顔が微笑ましい。あの時は、こんな顔を見せてくれるまで近しい存在になるとは思わなかった。 「あの子は昔から君がお気に入りなんだ。」とリトラー司令に言われたことがある。当時は理解できなかったが、今は分かる。嫌うという心の働きは無関心よりも好意に近いのだ。様々な物に無関心だった彼が、私を強く嫌ったのはそれだけ関心があったということ。 彼が私のことを好きなのだと気付いた時、どうしてそんなことになったのか分からなかったものだが、本当は随分昔に種は蒔かれていたのだ。昔から自分は彼にとって特別な存在だったのだ。今は、そう思える程度の自惚れはある。 「ふふっ。」 「また何かむかつくことでも思い出してんな。」 「もう、そこそこの歳ですからね。昔を思い出すことしか楽しみがないんですよ。」 つまらなそうに私の話を聞いていた彼は急に席を立ち、隣に座った。彼の行動は予想がつかない。何だろうと思って見ていると、頬を抓られた。珍しい反応だな、と思った。 「何ですか?」 「今は楽しくねーのかよ。」 当時もそうだったが、今も可愛いところがある。楽しくないはずがない。彼といると、凡庸な人間である私一人では見えなかったものが沢山見えてくる。私の頬に伸びていた手をそっと取った。 「あの。」 「ん?」 何かを言い出す前に、一拍置くのは彼の癖。意図的にそれを真似たのが分かったのか、私が口を開く前に彼が一度舌打ちをした。 「抓られたところが痛いんですけれど。」 頬を指差す。私も随分と成長したものだ。こんな態度を彼に取れるとは思わなかった。四年前の私が知ったら腰を抜かすかもしれない。彼は一瞬不思議そうな顔をしたけれど、すぐに察して顔をしかめた。 「はー。」 大きな溜息。それから、いかにも渋々という顔で私の頬に口付けた。どうだと言わんばかりに鼻を鳴らした彼の頭を撫でる。 「今日のあんたはムカつく。」 ソファーに押し倒された。唇にキスをされる。頬へのささやかなものと大違いの、激しいキスだった。彼の背に腕を回しながら身を任せる。 ちょっとしたことで彼の感情を揺さぶれるのは、それだけ彼の気持ちの中心に近いところにいるということを示している。私に許された特権なのだ。 「石鹸の匂いする。」 「シャワー浴びてきましたから。」 「最初からそのつもりかよ。」 「改めて言及されると恥ずかしいので、そこには触れないでください。」 勿論、物理的に触れるなと言っている訳ではなく、という台詞が思い浮かんだものの、あまりに下らない上に品が無いだろうと思ったので止した。私の頭はこういう段階になると碌な働きをしない。 もう一度キスをされた。ぼんやりしていて目を瞑りそこねた私は、キスをする彼の真剣な表情を眺めていた。天才の頭脳が、今はこのことだけを考えているのだと思うと可笑しかった。 「何が可笑しいんだよ。」 「いや、なんだか。どうしてなんでしょうね。」 「今日のあんた、そんなんばっかだな。」 呆れられてしまった。今度は私からキスをした。ハロルドが可笑しかったからなどと言ったら怒られてしまうだろう。もっと、良い言い方はないものか。 抱き締められた。彼の匂いがした。今は顔を見られる心配がない。気持ちのままに、力の抜けたにやけた表情を浮かべられた。それから、思ったことをそのまま口にする。 「幸せだからですかね。」 姿勢はそのまま。彼の顔は見えない。眉間に皺を寄せているのだろうか。きっとそうだろう。たっぷり間を取って、それから彼が口を開いた。 「今日のあんたはムカつく。」 抑揚を殺した一言が、私には、堪らなく甘く響いた あとがき 今回は「敵と味方」をテーマにイクティノスとハロルドが親しくなるきっかけの話を書こうと思いました。ハロルドが最後の方で「あんた味方なのか?」って聞く、という辺りだけ先に決まってたんですが難航しました。シャルティエ活躍してますね。その点は気に入ってます。ただ、あまりにラブ度が低かったんで、おまけで水増ししてしまいました。あれで許してください。笑 ちょっと自信がある題名についてですが、これは米西戦争が「輝かしい小さな戦争 A Splendid Little War」と呼ばれた、ってとこからつけました。天上との戦争が大きな戦争なら地上の中での内輪揉めが小さな戦争というわけで。Bloodyは戦争映画とかだと良く出てくる言葉ですね。要するにFuckの仲間ですが、多義的に使えるんで気に入ってます。「ブラディ」って響きも良いですし。今回の用法でBloodyを使うと、ルーティの技って・・・あ、失礼。 おまけ1を書いてて気付いたんですが、「自分の右腕」とセックスするのって何かオナニーっぽいなぁ、なんて、いや、あの、すみません。普段あんまり下ネタ言わないのに、どうして紙で証拠の残る場で言っちゃうかなぁ。取り敢えず淫乱カーレル君が書けて満足。 おまけ2は、ハロルドに「ムカつく」って言葉で愛を語らせたかっただけの話。濡れ場まで持っていくページがなかった。実は気力もなかった。笑 では、また。 BACK |