Der blaue Himmel ohne Sie
「往ってしまったか・・・・。」
私は、一人空を見上げていた。
20年振りに見る、翳りの無い青空。
あの日、袂を分かった日、お前が天上へ旅立った日、私とお前とが敵同士になった日・・・・
地上と天上、それぞれの総指揮官となった私とお前は、再び会い見える事は無かった。
机の中には小さな写真立てが、20年間変わらず入っている。
士官学校の卒業式で撮った一葉の写真。
私の隣で写っている、少し冷たげな青年。それが、お前。
「・・・懐かしいな。」
呟いて目を閉じた。
私の知らない20年間、お前は何をやっていたのだろう。
戦争は、終わった。
もう、お前と私は敵同士ではない。
だから、もう一度、一度だけでも良い。
お前と、会いたい。
それが叶わぬ願いと、私は知っている。
憎き敵を想うなど許されないとも分かっている。
カーレルを殺したのは、お前だ。
地上の全てを廃墟と化したのも、人々を殺戮したのも、全てお前。
私は、お前が憎い。
お前の罪は、私の罪。
軍を出て行くお前の背中を、私は見ていることしか出来なかった。
「私を止めるなら、後ろからこの背中を一太刀で斬れ。お前に殺されるなら、それも良い。」
あの時、お前はそう言った。
私は剣を抜き、握り締めた。
しかし、斬れなかった。
剣を取り落し目を伏せた私を、お前はどんな撫で見つめていただろう。
目の前に居る臆病な<敵>を笑っていただろうか。
それとも、僅かでも<友>との別れを哀しんでくれていただろうか。
「・・・ミクトラン・・・・。」
お前の名を呼ぶ。
応えは、何処からも帰ってこない。
もう一度、窓から青空を見上げる。
滲んだ太陽が輝いていた。
「・・・・司令。」
振り向くと、シャルティエが目を赤く腫らして佇んでいた。
いつもは綺麗に櫛の入れられている金髪も、ボサボサに乱れている。
「どうしたんだ、その顔?」
私は今にも再び泣き出しそうな彼に尋ねた。
考えてみれば、私も彼と同じ泣き顔だったのだが。
「ごめんなさい。でも、他の人のところじゃ、あの人のことで泣いちゃいけないから・・・・。」
<あの人>
あぁ・・・・ミクトランの事か・・・・。
私は、ハッキリしない記憶から、彼の素性を思い出した。
「そうか・・・君は、ミクトランに助けられたんだったな。」
「カーレル中将が亡くなったのに、敵なのに、いけないと思うんですけど・・・・でも・・・・・。」
そして、彼はポロポロと大粒の涙を零した。
彼は私と同じなのだ。
敵であるお前を想う、馬鹿な地上人。
歴史上に稀代の悪役として描かれるであろうお前を悼む、数少ない人間。
「僕・・その・・・ごめんなさい。司令。でも、他の人のところじゃ泣けなくて・・・。」
「いいんだよ。」
涙が止まらないシャルティエを、私はそっと抱き締めた。
彼はきっと、私を通してお前の幻影を見ているのだろう。
私も、彼を通して、私の知らない20年間のお前を見ている。
お前が救った小さな命は、こんなに大きくなった。
これからの時代を担っていく若者に育った。
お前は、この子に何を残したかったのだろう。
心の中で呟くと、また涙が溢れた。
溢れた涙が頬を伝い、シャルティエの肩を濡らす。
「司令?」
怪訝な顔で、私の顔を見上げるシャルティエ。
私は、慌てて無理に笑顔を作った。それでも、涙は止まらない。
・・・・あと20年?30年?・・・・
自分の寿命を数えてしまう自分が哀しくて、可笑しかった。
会ったら最初に何と言おう。
20年間の恨み言を並べてみるのも、良いかも知れない。
それとも、20年前の若い頃に戻ってみようか?
お前は、私を温かく迎えてくれるだろうか?
20年振りに、お前の笑顔が脳裏に浮かんだ。
あとがき
最近気が付いたのですが、うちの小説泣き過ぎかも・・・。(遅い)
リトラー×ミクトランネタはやっぱり好きなんですよねぇ。