注文の多いなんとか



「待った。ちょっ・・・ちょっと、待った。」

ちょっと行儀良くない感じに足を開いて椅子に腰掛けていたディムロス・ティンバーは切羽詰まった声を搾り出した。基本的に行儀の良い彼は普通こんな姿勢では座らない。どんな時も背もたれが必要ない程に背筋を伸ばしている。普通の状態なら。

「あんらよ、ひははっはは?」
「まず、ちょっと、離れろ。」

息も絶え絶えに、彼を自分を普通でない状態に追いやっている張本人を引き離した。ちなみに、その張本人はディムロスの両足の間に頭を入れていたので、必然的に頭を掴む格好になる。紫色の癖っ毛がディムロスの指に絡んだ。

「おい、こら、こっちは集中してんだぞ。」

頭を掴まれたまま、ハロルド・ベルセリオスが顔を上げた。その視線は非難の色を含んではいるものの、若干潤んだ目に普段ほどの迫力はない。しかも唇全体が唾液で光っているし、端からは割と盛大に溢れている。

「俺、噛んでないよな?」
「しげしげと確認するのを止めてくれ。」

ハロルドは袖口で口元を拭ってから、再びディムロスの股間を真面目な顔で覗き込んだ。傷らしきものはない。萎えてもいない。つまり、何も問題ない。

「問題ないなー?続けるぞ。」
「だから待て。」
「何だよ?胸で挟むとか、そういうオプションは無理だからな。」
「男にそれを求めるほどマニアックじゃない。」

そういう問題ではないのだ。思わず溜息が出る。ディムロスはいつも、この部下との会話に苦労する。

ラフでスピーディなコミュニケーション法は彼の親友にして片腕のノリス・カルナックとも共通するのだが、どうもハロルドの場合は上手く噛み合わない。

「あ、てめえ、今、他の男のこと考えてたろ?」
「は?えっ?」
「おいおい、それは流石に失礼だろーよ。」
「いや、そんなことは。」

こちらの意図は察してくれないのに、察して欲しくないところばかり読みが鋭いから始末に終えない。ディムロスはそう思った。そもそも「他の男のことを考える」についても食い違いはあるが、そこまで頭を回す余裕はディムロスにない。

「で、何?」
「いや、その。」
「あんた、こんだけ勃てといて良くなかったとか言うなよ。」

ハロルドが指先でディムロスのそれを突付く。

「良くないことはないが。」
「じゃ、何だよ?お前が娼館嫌だって言うから付き合ってんだぞ。」
「それは感謝しなくもない。」

ディムロスは娼館が苦手だった。娼婦に対して嫌悪感があると言うより、その女性がどういう境遇でそんな状態にあるのか気になって仕方なくなるのだ。それこそ、彼の男性機能が十分に働かなくなるほど。

戦闘のショックを和らげるために人肌に触れることが最も有効だと言われているため、ディムロスのその性質は野戦指揮官として致命的と言って良い。

「凄く、悪いことをしている気分になる。」
「はぁ?」
「いや、だって・・・なぁ。」

ディムロスは真面目な人間なのだ。ハロルドは部下であり、友人の一人であり、しかも男性だ。背徳感がないはずがない。

「悪いことしてる気分の癖に萎えてないし。」
「申し訳ない。」
「はー、面倒なやつだな。」

ハロルドはディムロスの太腿に頬杖を突いて、空いている右手で時折ディムロスのものを弄りながら溜息をついた。

「よし、じゃあ選択肢。」
「え?」
「あんた自分で動け。口と下とどっちが良い?」
「はぁぁっ?」
「されるままだから考える暇あってもやもやすんだよ。」

終始流されっぱなしだったディムロスは、急に選択肢を提示されて慌てる。既に状況に思考が追い付かない。二つの行為をそれぞれ想像してみるものの、イメージが膨らみすぎて混乱する。

「3・2・1・はい、どっち?」
「えっ。ええっと。」
「はい、時間切れ。俺が決めます。下。」

ハロルドは結局最後は自分で決めて、ディムロスを立たせてベッドに押し倒した後、いそいそと服を脱ぎ始める。

「あ、てか、あんた分かるよな?」
「何が?」
「これからすること。」
「あ、分からない、ことはないが。」

全裸になったハロルドはディムロスにサックを被せながら、尋ねた。彼とて全く何も知らないわけではない。ただ、現実感がなくて呆けているだけなのだ。

「あ、心配すんな。洗ってきたし。」
「いや、そういうことではなくて。」

仰向けのディムロスにハロルドが馬乗りになった。ディムロスの先端は既にハロルドの後ろの穴に当たっている。どうやら、彼らは本当に致してしまうらしい。

「あんたのでかいなー。大丈夫かな。」
「いや、その、無理はしなくて良いんだが。」
「こんだけでかくしといて説得力ねーよ。」

ハロルドが笑うとディムロスが顔を赤らめた。正直なところ、思考が追い付かなくて戸惑ってはいるものの、ハロルドの中にすぐにでも入りたい気持ちが彼の中にあった。

「あ、そうそう。」
「え?」
「俺、あんたのこと好きだから。」
「は?」
「好きでもないのにここまでしねーって普通。」
「え、ちょっと、待・・・。」

制止を聞かずにハロルドは一気に腰を下ろして、ディムロスのものを飲み込んだ。内側からボディーブローをもらったような衝撃が走る。同時に達成感と満足感もあった。

「何見てんだよ。」
「いや、別に。」

先程までの戸惑った表情とは少し違う顔で、ディムロスがハロルドを見上げていた。それが可笑しくて、ハロルドは少し苦しそうに笑った。

「キスするけど、良い?」
「構わない。」

許可を取ってから、ハロルドはディムロスと口唇を重ねた。今度はディムロスの方が笑った。ハロルドを抱えるようにしながら、動き始める。

「大丈夫か?」
「いっ、意外と。」

身体の内側をごりごりと削られるような感触がした。ハロルドは見栄もなく喘ぐ。あまり色気のある声ではなかったが、この際そんなことは気にしていられなかった。

「あんたは、あっ、ぐうっ、信じないかも、しんないけ、ど。」
「なんだ?」
「か、なり、いっ、ああぁっ、イイ、よ?」

ハロルドが苦しそうに、嬉しそうに笑う。ディムロスの動きが激しくなる。だんだんと、痛いのか苦しいのか気持ちいいのか分からなくなってきた。

「う、わっ、くっ。」

もう喋れなくなったハロルドはディムロスに縋り付くだけになっていた。ぞわぞわと鳥肌が立って、ディムロスが彼の中に強く入ってきた時、押し出されるように射精した。身体を震わせながら、ハロルドはディムロスの肩に爪を立てた。ディムロスが彼の中で拍動したのもそれからすぐだった。

「う、わっ。」

ディムロスが出て行く時、ハロルドはまた色気のない声を上げた。ディムロスはそれを見下ろしていた。

「何、見てんだよ。」
「ハロルド。」
「ん?」

ハロルドは息も絶え絶えだった。体内を散々蹂躙されて、気持ちの上では生きるか死ぬかくらいの瀬戸際にいる自分に話しかけるからには、内容のある会話でないと許さない、と思っていた。

「私も、好きだと思う。」
「・・・・。」
「お前が。」

内容としては許される類のものだったが、まともに受け答えが出来ない状態でそんな重要な話を切り出すな、とハロルドは思った。

しかし、ディムロスが口にした事実に対する喜びが勝って怒ることも出来ずに結局はなけなしの酸素を使って、口を開いた。

「そっか。」

苦しそうだが、えらく上機嫌な響きだった。ハロルドのその様子を見て、ディムロスは、ハロルドと違って許可も取らずにキスをした。













あとがき
なし崩し的に、しかも割と明るい雰囲気でディムハロがやっちゃう話が書きたかっただけ。
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