秘匿名称D号


薄暗い部屋に長机が四つ、ロの字を描くように並べられていた。出席者は四人。少人数だったが、重要な会議であることが部屋の重い空気からは感じられた。

「現状を打開するためには決戦が必要と考える。」
「そんな博打みたいな真似をさせられるか。」
「威力偵察なんて幾らやっても埒が明かないだろ。」
「あれでも少しずつは前進してるんだ。」
「相手も気付かないレベルの前進に意味あんのか?」

白熱して椅子から腰を浮かせる二人を、黙っていた二人が抑える。コップに注がれた水を飲んで気を落ち着けたが、片方は溜息をつき、もう片方は舌打ちをすることで自分の気が済んでいないことをアピールした。

「情報参謀としては、既に気は熟したと考えています。その点では作戦参謀に賛成です。」
「脈ありなのは分かるが、仕掛けを間違うと台無しになりかねない。」
「その点は皆、了解済みです。」
「だったら。」
「誰にも傷ついて欲しくないのは皆同じです。」
「・・・工兵参謀は反対意見を取り下げる。」

慎重論を唱える工兵参謀も、冷静な意見に押されて意見を改めた。情報参謀は、この彼が見た目に反して情の深い人間であることを、良く分かっていた。会議室の緊張が少し緩んだのを見て、今まで発言していなかった参加者が口を開く。

「でも、決戦というのは具体的には?内容によっては軍医官として賛成できません。」
「内容によっては、というのは、どういう意味ですか?」
「いえ、ですから、衛生上問題がある作戦は避けるべきだと意味です。」
「衛生上?」
「えーっと、ですから・・・。」

情報参謀はなおも理解できていない様子で首をひねる。軍医官はその様子を見て、何とも具合が悪そうな表情を浮かべた。余り細かく説明したい話ではない。

「その、勢いで余り事を進め過ぎるのも、ということで。」
「もう少し具体的な表現を使ってください。誤解を生みかねません。」
「その、ですね、具体的な表現を使うにも若干問題が・・・。」

情報参謀は悪気があって言っている訳ではないので性質が悪い。工兵参謀と作戦参謀は軍医官が言わんとしているところを了解したようで、二人の様子に笑いを堪えていた。沈黙が再び会議室に垂れ込める。

「その、あの・・・。」
「会議で発言を躊躇ってどうしますか。」
「すみません。でも、あの、その。」
「いつもはっきり物を言う貴女らしくもない。」
「それは流石に内容に寄ると言うか、あの。」

「自分達みたいに勢いで寝とくのは止せって話だろ?」

閉塞状況を破る作戦参謀の発言。工兵参謀が思い切り額を机にぶつけ、軍医官は飲もうとしていた水を吹き出した。その様子を見て、情報参謀はやっと合点が行ったようで「あぁ」と言いながら頷く。

「申し訳ない。貴女に性的発言を強要する意志はありませんでした。」
「いえ、分かってます。分かってますから冷静に謝るのはやめて・・・。」

情報参謀は相変わらず落ち着き払った様子で、軍医官が噴き出した水を布巾で拭いてやっていた。まだ笑ってもらえた方がマシだと軍医官は思う。

「え、てか、何で、こいつが知ってんだよ。」
「あ。」
「あ、じゃないだろ。」
「ごめん。つい、色々相談しちゃって。」
「相手選べ!」
「いや、意外と聞き上手で。」
「知るか!!」

先程の作戦参謀との言い合いよりも激しく感情を露わにする工兵参謀。情報参謀は彼が心を許した相手には感情表現を躊躇わないことを、良く分かっていた。

「あれは相談だったのか。のろけかと思った。」
「忘れろ。すぐに忘れろ。」
「あー、ガキの名前が楽しみだなぁ。」
「よし、殺す。今すぐ殺してやる。」

「あの〜。」

会議参加者でない人間から声がかかる。しかし、その声は怒りを露わにする者、それに油を注ぐ者、どうにか宥めようとする者には届かない。情報参謀だけがその声に気付いた。

「何ですか、これ?」
「作戦会議らしいよ。」
「何の?」
「秘匿名称D号作戦。」
「名前は本格的ですね。」
「名前はね。」

二人の視線が会議室奥の黒板に向く。「対ディムロス・ティンバー対策会議」と書かれており、その下には見慣れた写真が二枚。ディムロス・ティンバーとカーレル・ベルセリオスのものだった。

「プロの悪ふざけは性質が悪いですね。」
「目下、ただの悪ふざけになっているけどね。」

怒り狂う工兵参謀から逃げ出した作戦参謀は、黒板の前まで来ると大きくハロルド・ベルセリオスとアトワイト・エックスの名前を書き、それを昔懐かしい傘のマークの下に納め、そのまま部屋から逃げ出した。

「あ、少将。総司令がお呼びです。」
「じゃあ、ここは若い二人に任せるとしよう。」
「おい、お前ら、ちょっと・・・。」

バタン、と音を立ててドアが閉まる。残された若い二人。少し前から交際中。目下ちょっとした喧嘩中。黒板に残る相合傘。

「さて。」
「さて?」
「仲直りのチューでもしますか。」
「するか馬鹿。」
「仲直りHも捨てがたいけど昼だし。」
「一回死んどけ。」
「お腹の子だけは!」
「まだ出来てないだろ!」

時間の問題です。



















あとがき
ディムロスとカーレルをくっつける作戦会議をするつもりが、ハロアトいじって終わった話です。取り敢えずノリだけ楽しんでいただければ・・・。

無意識だったけど、ハロルド「まだ出来てない」って言ってるから将来的には出来る予定がある訳で・・・ふふふふ