久々に兄貴の家行ったら「犬」飼い始めてた。
まぁ、俺はそれを犬だとは思わないんだけど。犬にしては図体が大き過ぎるし毛は少なすぎる。歯は普通もっと鋭い。二本足で歩ける。でもまぁ、兄貴がそういうんだから犬なんだろう。


「ただいま。」
「・・・わん。」


犬にしては声が低い。いや、これは俺の犬のイメージが偏ってるだけかも。ただ、行動は犬らしく、兄貴が帰ってくると玄関まですぐに迎えに行く。躾は良いんだな。


「よしよし。お迎え偉いね。」


何となく付いて行って玄関まで行くと、兄貴は青い毛が長く伸びた頭を撫でてやっていた。犬は兄貴の顔を舐めている。
・・・・良いのか、これ?


そういや、首輪付いてるな。ってことはマジなのか。兄貴、そういう趣味あったのか。ちょっと変わってるけど割と常識人だと思ってたから多少ショックだ。まぁ、多少だけど。


「着替えてくるからちょっと待っててね。」
「わん。」


あ、ちゅーした。俺の周り犬飼ってる人いないから知らないけど、でも普通は犬とべろちゅーしないと思う。どうなんですかね。犬なんですか?いや、聞いても仕方ないんだけど。


「あのさ。」


兄貴が自分の部屋に入っていくのを俺とこいつで見送ってから口を開いた。終始屈んだ姿勢のそいつは、顔を上に向けて俺の顔を見た。いつも見上げる感じになるこいつの顔が下にあんのって違和感あるな。


「犬なの?」
「・・・・・・・。」
「一応聞くけどさ。」
「・・・・・・・・。」
「あんた、ディムロスだよな?」
「・・・・・・・・・。」
「何か答えろよ。」
「・・・・・・犬は喋らない。」


いや、喋ってるし。今のはギャグ?それともマジ?いや、こいつのことだからマジなんだろうなぁ。真面目を絵に描いてコンピューター処理して3Dにしたみたいな奴だからなぁ。


「何のプレイ?」
「・・・・わん。」


ま、無駄だよね。何かルールがあんならこいつが話す訳ないし。最初から分かってたのに何やってんだろ、俺。やっぱ目の前で急にべろちゅーしてて動揺したかも。若いな、俺。


「ま、良いや。」


好きにしてくれ、と思いつつ何となく頭を撫でてやった。普段手が届かなそうな頭のてっぺんを触るのはなかなか感慨深い。あと、こいつ今、何か表現の難しい声で鳴いた。多少可愛いと思わなくもない。何だかなぁ。


「お待たせ。ご飯にしよ。」


兄貴、俺じゃなくてこいつに言ってるし。序列は犬>俺なのか。まぁ、そうだろうな。兄貴は何だかんだ言って家族より恋人派だし。
・・・・犬で恋人ってどうなの?


兄貴は手早く三人(?)分の食事を用意してテーブルに二つ出した。食うもんは一緒なのか。でも一つは床。その辺は犬と人なのね、なるほど。でもフォークとナイフは出てる。どういう基準なんだ。


「待て、だよ?」


食器を並べながら兄貴は犬に一声。分かっていると言わんばかりに頷く犬の態度はかなり堂に入っている。何か、犬のような気がしてくる。けど、いや、でもこいつどう見ても犬じゃないし。


「よく我慢したね。よしよし。食べて良いよ。」


頭を撫でて褒めてやって、犬に顔舐められて、いやいや、どうしてそこでちゅーすんだよ。てか俺いるんだけど良いの?あ、犬と飼い主だからか。本人達はそれで良いんだろうけど、俺はそういう訳にいかないんだけどなー。


「あのさ。」


夕飯のパンを齧りながら兄貴と犬とに交互に目をやる。


「いつから飼い始めたの?」
「先週から。」
「何で?」
「前から犬飼いたかったから。」
「・・・・・・。」


ま、案の定意味分かんない返答ですよね。犬は相変わらず黙々と食べてる。ホント真面目だなー。何度も思うけど、ホントに何プレーだよ。


「じゃ、質問変えるけどさ。」
「うん。」
「セックスしてんの?」


あ、犬の方が噴いた。
そか・・・してんのかー。多分、最中も犬なんだろうな。怖っ。これって獣姦?いや、でも人間だしな―、何だかんだ言っても。


「してるよ。」


あ、犬が咳き込んだ。
てか兄貴凄いな、顔色一つ変えねーし。まぁ、この二人だったらしたがるの兄貴だろうなぁ。あー、何が嬉しくて身内がやってんの想像してんだよ。


「バター犬?」
「そういう言葉どこで習うの?」
「ものの本で。」
「へー、こんど借りようかな。」
「イクティノスのだけど。」
「じゃ、直接頼もう。」


偶然、兄貴と俺と同じタイミングで犬に目が行った。一瞬びくっ、と反応してから犬は目を逸らし、また黙々と食事を続ける。段々可愛い気がしてきた。いけない。


「バターかぁ。」
「何?」
「ディムロスはバター塗った方が舐め甲斐ある?」


あ、犬逃げた。急ぐと二本足なのか、やっぱり。


「シャイなんだ。」
「知ってる。」
「でも、可愛いだろ?」
「何となく分かるよ。何となくだけど。」


兄貴は自分のと俺のと、犬が残して行った皿を重ねて台所へ下げに行った。大して広くないリビングとキッチンだから、兄貴の姿を目で追えば視界に入り続けるし声も聞こえる。


「あのさ。」
「ハロルドは何か尋ねる時は大体あのさ、だね。」
「癖なんだよ。」
「ごめん、話の腰を折ったね。」


出鼻を挫かれた、が正しいと思う。兄貴と話してると常識人みたいな思考になるな。俺、天才らしいんだけど、どうも調子出ない。毒気を抜かれると言うかペースが握れないと言うか。


「何でこんなことしてんの?」


頬杖を突いて、気の無い顔をしていたのに声が真面目になってしまった。どうでも良いような、でも気になるような、だったのでこんなにマジで聞かなくても良かったんだけど。兄貴はその空気を感じたのか少し表情を変えた。ちょっと間を取って、ちゃんと席に戻ってから口を開く。


「この前、二人で買い物に行ったんだけどね。」
「うん。」
「ペットショップに寄って。」
「へー。動物見たわけ?」
「まぁ、犬とか猫とかハムスターとか。」
「俺、ハムスターはそこそこ好き。」
「そうだっけ?初めて聞いた気がするけど。」
「初めて言った気がする。」


少し間が空いて、何だか可笑しくなってどちらともなく笑う。
全く、何を真面目に話してるんだか。


「で、ペットショップで?」
「犬用の首輪売ってて。」
「段々核心に近づいてきたんじゃん?それで?」
「ディムロスに似合うかなぁ、って。」


我が兄ながらすげー発想だな。
そう一瞬思ったけど、でも、そういうもんなのかなとも思う。


「で、飼っちゃった訳だ。」
「うん。一週間休暇貰って。」
「ノリス、怒ってなかった?」
「呆れられた。」


うちの兄貴、馬鹿なんじゃないかな。いや、それで飼われる方も飼われる方だけど。てか、良く一週間休めたな。


「こんなことしてられるのも今のうちかなって思って。」
「逆じゃねーの?」
「そうかな?」
「そーだろー。」
「戦争終わったら毎日一緒にいられないかもしれない。」
「・・・・・・・。」


何だかイメージ出来なくて、でも嫌な予感がして黙った。


「戦争終わったら、なんて想像付かないか。」
「ま、物心付いてからずっとだから。」


兄貴は戦争が終わらなきゃ良いとか思ってるんじゃないか、なんてことを感じてしまった。それを打ち消すのと平行して、じゃあ平和になって何すんの俺、って思って気が重くなった。


「わん。」


あ、犬戻ってきた。一声で兄貴の表情が明るくなって、ちょっと面白くない。まー、別にこいつと張り合う気ないけどさ、ずるいよな、こいつ兄貴のこと甘やかしまくるから。


「さて、俺帰るわ。」
「え?ゆっくりしていけば良いのに。」
「兄貴こそゆっくりしろよ。折角だし。」


兄貴の肩を叩いて、それから犬がこっちを見てたから鼻先をつついてやった。煙たそうな顔をした犬は噛みつかんばかりに歯を剥く。何だかんだでノリノリじゃねーか。


「この犬、ちゃんと躾けとけよ。」
「私の言う事は何でも聞くよ。」
「はいはい、良かった良かった。」


犬連れて玄関まで見送りに来た兄貴を追い払って、外へ出た。少し歩いて、公衆電話を見つけて、小銭を入れる。


知ってはいるけれど滅多にかけない電話番号をダイアルする。




うん、俺。
え、悪い?
別にそんなんじゃないけどさ。
うん。いや、兄貴んとこからの帰り。
あー、うん。分かってる。
うん。
うん。
・・・・・。
あのさ。
・・・・・。

今夜、暇?





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