FIRST KISS



初めて会った時の記憶は、無い。
別に大した思い出が無いとか、私が忘れっぽいとか言う事ではない。
そもそも、物心なんてものがつくずっと前だったのだ。


聞く所によると、互いの母親は出産前に病院のベッドが隣だったらしい。
で、話好きのウチの母と聞き上手だった彼の母親はすぐに仲良くなる。
陣痛も産気付くのも仲良く一緒、と言う寸法だった。



「誕生日おめでとう。」



「そっちもな。」



そう言うわけで、彼と私とは同年同月同日同時刻に生まれている。
その生まれの縁までが関係してか、16になる今日も一緒だ。


記憶にある私の誕生日は、いつも彼の「おめでとう」で始まる。
だから、いつの間にか彼の言葉が無いと歳を取った気にならなくなっていた。
誕生日の朝起きただけでは歳を取った気にならない。
朝起きて、学校か公園か図書館か何処でも良いから彼に会って初めて誕生日なのだ。



「17回目だね。」



彼が花のような笑顔で笑った。
それを直視出来なくて、それとなく視線を外す。
いつからだろう、彼の輝くばかりの笑顔が私は苦手だ。



「あぁ。」



その笑顔を見せられると、何だか思考が鈍る。
いや、鈍るというよりも他の事が考えられなくなる。
自分が抑えられなくなって、どうにかしてしまうそうになる。


どうにか、って何をするつもりだ私は・・・・。
自分に呆れて内心で頭を抱える。


ちらりと覗き見ると、彼は不思議そうに私を見ていた。
罪作り、と言っても過言では無いほどに無防備な顔をして。
私は微かに舌打ちをして、顔を上げた。



「お前、良いのか?」



「何が?」



首をひねりながら彼は目を瞬かせる。
媚びっぽい小娘か小学生がしそうな仕草。
なのに、彼には何故か似合ってしまう。



「他の友達は良いのか?」



どうにか続けると、彼がさも面白そうに笑った。
本当に腹を抱えて笑っている。


彼には友人が多いのだ。
特に高校に入ってからというのは物凄い。
知らない中学の奴らが次々とやってきては、仲良くなろうとしてくる。
偏に彼の容姿とマメな性格が評判なんだろう
そう言う奴らに、一々愛想良く応える彼を、私は尊敬せずにいられない。


その辺り、私は対照的だ。
笑顔の一つも作れなければ、気遣いの一つもできない。
人の顔や名前を覚えるのが苦手で人付き合いを避けていた。
独りが好きな奴、と昔はそれで済んだが、最近は高飛車な態度と勘違いまでされる。
古い貴族の血が混じっているか知らないが、私の顔は無駄に偉そうなのだ。



「ミクトラン、それ本気で言ってる?」



笑いを堪えながらの彼の返事。
勿論伊達や冗談で言ってるんじゃない。
私は本気だし、気の良い幼馴染に申し訳ないなと思っている。
それをあっさり笑い飛ばされ、私は途方に暮れる。



「もっかい言って。」



「はぁ?」



「もう一回。」



頼まれると断れない。
人付き合い以外に関しては何でも出来るつもりだが、唯一の弱点は彼だ。
彼に頼まれたら、私は内戦の真っ只中へも丸腰で行くだろう。



「お前は友達も多いし、高校入ってまた増えたし、無理して私と居なくても良い・・・って事。」



最初だけ僅かばかり威勢が良かったが、すぐに萎んでしまった。
彼の顔が見られなくて、視線を遠くに泳がせる。
もし、「そうか」と捨てられたら生きていられないかもしれない。


我ながら情け無いが、甘えてるわけにもいかない。
私にだって一分の意地がある。


沈黙が流れる。
彼がどんな顔をしてるのか、気になるが怖くて見られない。
でも気になって、意を決して顔を上げようとした、その時。



「私といるのは、嫌か?」



「そんな事は無い。私は・・・。」



反射的に答えると、いつも本音が出る。
私の悪い癖だ。
速攻で言ってから、後を残したまま赤らめた顔を背ける。



「・・・続きは?」



私の答えが気に入ったのか彼は笑顔だった。
しかし、彼の顔も心なしか赤い。
自分で言わせておいて、自分で照れていては世話は無い。


黙っていると、再度「続き」を求められた。
自分でも分からない、私が何を言おうとしたのか。
分からないから、黙っていた。



「言わないの?」



「言えないんだ。」



彼の望みを叶えてやりたいのは山々だ。
でも、出来ない物は出来ない。
本当に分からないのだし、何となく想像がつくがそれを言ってはいけない気もする。



「あっ、あー・・・じゃ、その代わりに、頼みがあるんだけど・・・。」



お互いに視線を交わらせないまま、会話が続く。
彼としては、少し前から考えていたことらしい。
それで、誕生日のプレゼント代わりに頼もうと思っていたと。



「別に構わないが、私に出来ることなら・・・。」



何だろう、と思案する。
物を欲しがるような奴じゃないし、迷惑ごとを持ってくる事も無い。
じゃあ、一体どういう頼み事だろうか。



「えっと・・・目、瞑ってくれない?」



「あぁ。」



言われるがまま、瞼を下ろす。
目を閉じると、先ほどから高鳴りっぱなしの胸が気になる。
煩いくらいに騒いでいて、彼に聞こえるのではないかと心配になる。



「リト・・・。」



「ごめん、ちょっと黙ってて。」



何だか切羽詰った声で驚いた。
それでも律儀に、私は目を閉じて口を噤む。


不思議な沈黙が、流れていく。



























































チュッ
































唇に熱を感じた。
教えられなくとも、何故か彼の熱だと分かった。
その瞬間、反射的に彼を抱き締めていた。



「えっ・・・あっ。」



彼が驚きの声を上げて、私も目を開けた。
ほんの一瞬だけ、二人が見詰め合った。
エメラルドグリーンの瞳に、酷い顔の私が映っていた。



「ごめん。」



お互いに叫んで、慌てて手を離した。
少し距離を取って、お互いに顔を背ける。


ほんの勢いで体が動いた事を悔やんだ。
あんな事をしなければ、もう暫く彼の唇と触れ合っていられたのに。



「へっ、変な意味は無いから。」



彼が慌てて言う。
まるで、私のした事に変な意味があったみたいで寂しかった。
だが、あの瞬間は明確に変な意味のある抱擁だったのだから最もな話だ。



「ごめん。」



私はもう一度謝った。
折角なら、もう少し放さないでいれば良かった。
そんな風に思っているなんて、億尾にも出さず。



「あっ、別に・・あんまり、ううん、全然嫌じゃなかったし。」



反省していたはずなのに、嬉しい気持ちがもう勝っていた。
全然嫌じゃなかった、そう言って貰えた。
嫌われていなくて本当に良かった。



「あっ、その・・・さっきの話なんだけどね。」



彼が沈黙を破って切り出す。
私は戸惑いが抜けないまま、先を促した。
顔が熱くて、火が出そうだった。



「私は、お前といる時が一番良い・・・から。」



彼が言い切って、逃げるように駆け出した。
あまりに急なことで、私が彼の背中を見た時には随分遠くに行っていた。


動悸が高まりすぎて、私は走れそうも無かった。
このまま心臓が破裂するんじゃないかと思った。


彼の背中が見えなくなっていく。
見えなくなるまで彼の背を見詰めていた。



「はぁ。」



溜息を吐く。
明日からどうやって付き合って行けば良いんだろう。
彼は、変な気も無いのにどうしてあんなことしたんだろう。


考えて考えて、家路を歩く。
考え続ける内に、いつの間にか考えの内容が変わっていた。
どうしようから、どうやって彼をもう一度抱き締めよう、に。





私は、人付き合い以上に諦める事が苦手だ。


ファーストキスの温もりが、そう教えてくれた。

















あとがき

ファーストキスの話。
バカですね、バカ。
このミクちゃんがリト君置いて天上行くとは思えない。
絶対連れてくか諦めるかするって。
「私はお前と戦争なんてしたくないんだ。」ってリト君に言われて折れるのミクちゃん。
何故って、何でも言うことを聞いちゃうからですよ。
バカですね、バカ。
ミクちゃんが受け受けしてた。






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