春も終わり
あの戦争が終わって、二ヶ月ほど経った頃だっただろうか。
「地上軍総司令メルクリウス=リトラー氏、暫定連邦政府総裁に就任。・・・・頑張っているようですね。」
昼間の人気も無い公園のベンチに、その男は居た。
男は、新聞を広げ嬉しそうに微笑んでいる。
ディムロスは連邦軍司令長官に抜擢。
クレメンテ、イクティノス、ノリスは軍に残り、アトワイトは連邦医大の教授。
ハロルドは科学の平和利用の研究に従事するらしい。
新聞には、一人名前の無い者が居た。
天地に勇名を轟かせた・・・とまではいかないまでも、天地戦争の英雄には変わりない、ある青年。
「彼は・・・・。」
男の脳裏には、少し頼りなさげな金髪の青年の姿が浮かんでいた。
すこしネガティブで、ひねくれていて、可愛げのある青年。
「シャルティエは、どうしているのかな?」
男はゆっくりと腰を上げ、空を見上げた。
季節は巡り、もう春の終わり。
葉桜が日の光に輝いていた。
「・・・・カーレル中将・・・・・!?」
男を見たシャルティエの第一声は、驚きに震えていた。
不安そうな表情を浮かべる彼は、2歩3歩と後退る。
「何で・・・・此処に?中将は・・・ダイクロフトで・・・。」
大きな瞳を、より一層見開いてシャルティエは尋ねた。
震えた声のその問いに、その男・・・カーレル=ベルセリオスは、含みを持たせた笑いを見せる。
「場所を変えて、話そうか。」
「軍を辞めて、何を?」
「んっ・・・市役所の・くっ・・・・仕事を・・・紹介し・て貰っ・・・て。」
カーレルの問いに答えられるほど、シャルティエに余裕は無かった。
久しぶりに会って、10分とせず部屋に連れ込まれてしまったのだ。
「誰に?」
「しょっ・・・少将・・に・・・・。」
息も絶え絶えのシャルティエは、喘ぎ交じりの答えを返す。
その姿をカーレルが見つめていると、涙に潤んだ眼を逸らした。
一子纏わぬ姿のシャルティエの下半身で、カーレルの手が緩々と動いていた。
「今でも、少将と?」
「はぁ・・・しゅっ・・・・・週に・・・1・・2・回・・・。」
苦しそうなシャルティエも気にしない様子のカーレル。
微かに微笑むと彼は質問を続けた。
「週に1、2回会って、こんな事をしている訳・・・・か。」
「よっ、止して下さい。もう、そんな・・・・・・・・。」
左右に首を振り、頬も耳も朱に染めて、シャルティエは俯いてしまった。
そんな彼の細い顎に指を掛け、強引に唇を奪いカーレルは笑う。
「フフフッ。可愛い、シャルティエ。」
囁く彼のその瞳は、まるで晩秋の夕焼け空のように、深く紅い紫を湛えていた。
「久しぶりに私に会って、どう思った?」
猶も続くカーレルの質問に、シャルティエは健気に答え続ける。
何か、目の前から彼が消えてしまうのを恐れるように。
「もっもう・・会えない・・・かと・・・思って・・・・ました。・・・だから、凄っ・・きゃっ・あんっ・・。」
シャルティエの言葉は自らの声にかき消された。
彼はシャルティエに答える余裕も与えず、責め立てる。
彼自身の言葉と、身体で。
「凄く?」
「驚き・・・ました。で・・も、嬉・・・・しかっ・・・あっ・・んっ。」
シャルティエは、倒れるようにカーレルを抱き締めた。
彼の温かい心臓の鼓動が、カーレルにも伝わる。
熱く、しかし切ない響きだった。
「だから・・・僕・・の、前から・・・・消えない・・で・・・・・。」
カーレルは、その願いに答えてやる事が出来なかった。
彼に出来たのは、ゆっくりと目を伏せ、シャルティエを抱き締めてやる事だけだった。
シャルティエは目を閉じない。
眼を逸らせば、彼が居なくなってしまいそうだったから。
「・・・・・・・して・・・・。」
シャルティエは、消え入りそうな声で呟いた。
縋るようにカーレルへ抱きつき、潤んだ目で大きなアメジストを見つめた。
「何処にも行かないで・・・僕と、繋がっていて・・・・・。」
ポロポロと銀の雫が落ちて、白い頬を濡らした。
カーレルは、涙が伝う頬にキスをして、シャルティエを押し倒した。
「んっ・・・・。」
シャルティエは、頬のキスを唇へと持っていき、小さく呻いた。
気持ちが不安で、カーレルの首に腕を回す。
彼が消えてしまわないように、しっかりと、細く力ない腕で。
「シャルティエ、入るよ?」
シャルティエは、返事の代わりに首へ回した腕に力を込めた。
彼が居ると言う事を確かめるかのように、シャルティエは彼を求めた。
今にも、目の前から消えてしまいそうな恐怖で、きつく締め付ける。
「いっ・・・・・・中じょ・・・もっと・・・・・・。」
息も絶え絶えに、小さな身体は跳ね弾かれたように、弓なりに仰け反る。
温かいカーレルの肌
息遣いと、心臓の鼓動
優しい言葉と、柔らかい視線
抱き締める腕と、包んでくれる胸。
その懐かしさと、愛しさに包まれて、シャルティエは達した。
あの頃の、哀しくも楽しかった日々を思いながら。
二度と返らない、あの日々を思いながら。
やはり、彼は消えてしまった。
シャルティエが束の間の眠りから目を覚ました時には、もう居なかった。
「やっぱり、行ってしまいましたね。」
独りになった部屋に、二つのグラス。
琥珀色の液体が、音を立てて注がれる。
「・・・・お別れの乾杯です、中将。」
キンッと高い音が響く。
もう冷たくなった身体に、飲みなれないアルコールが染み込んだ。
もう・・・・春も終わり。
窓辺に、紅紫の紫陽花が揺れていた。
あとがき
みか様に捧ぐ。
「黒カー×シャルでシリアス系裏」との事でしたが・・・・。(汗)
黒カーって出来ませんでしたぁ。(土下座)