平穏の迷い子
・・・・えぇ、そうですね。あれは、私が入隊して間もない頃でしたね。
って事は・・・もう12、3年も昔になりますね。
それは、本当に吹雪の激しい夜でしたね。
金属製の見張り台が、雪の重みと強い風で倒れるほどでした。
私は運悪く警備の当番。真っ白な空の下で、編成されて間も無い自分の部隊と寒さに耐えていました。
あれほど寒い夜は、長い軍の生活で無かったですね。
丁度、防寒服の配給も送れていて、着ている物も薄かったですし。
えっ、大丈夫だったのかって?
う〜ん、あの頃は私も21、2歳で若かったですしね。
今なら誰よりも先に倒れているかもしれませんが、当時の私は多少鍛えてもいましたから、まぁ、なんとか。
やっと交代時間になって、部下達を先に帰した時。
宿舎のほとんどの部屋が消灯していましたから、もう11時を回った辺りでしたね。
ふと何気なく振り返って、荒涼とした雪原の方を見たんです。
警戒用のライトが照らす先に、小さな影が幽かに浮かんだのが目に入りました。
誰か居るのか?
宿舎へ向かう足を止めて、私はそう声をかけました。
反応が無かったので、二度三度と呼んだのですが、影はそのまま遠ざかって行きました。
気のせい・・・・そう思ったんですが、どうも気に掛かってしまって私は後を追いました。
真っ白な世界を、ボンヤリとした影だけを頼りに進んだんです。
今考えると、随分無茶なマネをしたものです。
どうやら、追いかける私の脚の方が速かったからか、だんだんと影に近づき輪郭もハッキリと見えるようになっていたと思います。
影は私の半分ほどしかない身長で、困惑した様子に右へ左へと迷走を続けていました。
あっ・・・転んだ。
目の前の小さな人影が、雪に足をとられて派手に転ぶのを見て、思わずそう叫んでしまいました。
倒れると埋まってしまうほどの吹雪の中でしたから、私は慌てて駆け寄り人影を助け起こしました。
年齢は10歳かもう少し下くらいに見えました。色の白い小柄な少年でした。
赤紫の髪を所々白く染めている雪を落としてやると、少年はゆっくりと立ち上がって、私の顔をまじまじと見つめたのを憶えています。
髪と同じ色の澄み切った瞳でした。
少年は、
寝ぼけて拠点を出てしまい道に迷った。
恥かしそうにそう言っていました。
私がついつい笑ってしまうと少し気分を害したようで、
彼は整った眉の間に浅く皺を入れて、顔を顰めました。
小さな身体で、大人っぽく振舞おうとする彼が可笑しくて、私はゆっくりと基地まで戻りました。
この少年と、暫く一緒に居てみたくなったんですね。
それで、渋々と言った様子の彼の手を引いて、拠点へ戻ると其処にはまた、面白いものがありました。
一瞬、雪女かと思った髪の長い謎の人影が、基地の中をうろうろとしていたんです。
ゆっくりと近づくと人影が、髪を振り乱しながらこちらを向きました。
警戒用のライトに、ボンヤリと浮かぶ人影は吹雪の中でバサバサとマントを靡かせていました。
そして、大声で何事か叫びながらこちらに駆け寄ってきたんです。
「それで、誰だったんですか?」
ディムロスが身を乗り出して、イクティノスに尋ねた。
作戦会議の前の暇つぶしのつもりだったのだが、随分と受けてしまったらしい。
イクティノスは苦笑しながら言葉を続けた。
「誰でしたっけ、カーレル中将?」
にやにやと笑うイクティノスから、カーレルは苦々しく舌打ちし、顔を逸らした。
幼い頃の失敗を大人になってから引き出されるほど、腹の立つことは無い。
カーレルは黙ったままで会議室のドアを指差した。
同時にガラッとドアが開く。
そこには、にこやかな見慣れた顔が。
「よし全員、揃って・・・・んっ?どうしたのかね。」
集まる視線に、長い髪の頭を掻き掻きリトラーが尋ねる。
誰も答えず、笑いだけが起こった。
きょとんとするリトラーと、憤慨しているカーレルに、イクティノスは笑いながら言った。
「若かったですね、お互いに。」
軍に入って、13年。
決して平和な日々ではありませんでした。
多くの仲間を失い、多くの命を奪ってきました。
しかし、その日々は、少なくとも私にとっては、幸せでした。
多くの仲間がいて、一日一日が当たり前に過ぎる事が幸せ。
きっと、これからもずっと。
この戦いが終わっても、この幸せが続きますように。
平穏な日々を、この仲間達と過ごせるように。
突然笑われ、妙な事を言われ、未だに状況が分からないリトラーを尻目に皆笑っていた。
昔の事を引き出され、笑いの種にされ、憤慨するカーレルを尻目に皆笑っていた。
戦場の殺伐とした空気の中、この場所、この一時だけは平穏が溢れていた。
あとがき
徒然なる侭に、書いてみました。
CP無し、戦闘シーン無し、甘味無し、苦味無しの感じになってしまいました。
まぁ、次に書くであろうカーイクの裏モノの前段階って感じで。
10歳年下の、寝ぼけて歩き回っちゃうくらいの昔から見ている子が相手という辺りに、刺激を感じてください。