カチッ
音と共に火花が飛び、火が点る。 揺らめく火に煙草を近付け、大きく一服。
喫煙をいつ憶えたか記憶には無い。 ただ、あまり良い憶え方をしなかったのは確かだ。 昇る紫煙を眺めながら、大きく一息吐いた。
自ら不健康になる行為。 人間しかしないであろう、愚かな行為。 非生産的で、非効率、おまけに不経済。 良い事なんか無いのに。
「へぇ・・・吸われるんですね。」
声に振り返る。 一人になりたくて、町に出たのに困ったものだと思いつつ。
其処には、寂れた前線の街のバーには不釣合いな、青年が一人。 薄明かりの下金髪を揺らしていた。 亜麻色の透き通った瞳が、私を見詰めていた。
「隣、宜しいですか?」
薄く笑って、彼は隣に腰掛けた。 軍服は着ていない。 初めて見るかもしれない、私服の彼。 歳相応の雰囲気を纏った、普通の青年に見えた。
まぁ、多少幼く見えることは否定できないが。
「何かの飲むかな?」
かける良い言葉が見つからず、口を出た一言。 確か酒には弱かった彼が、飲むと言う筈もない。 ましてや、こんなに汚いところで。
「同じものを。」
私の方を指差して、彼はバーテンに声をかける。 私は思わず苦笑した。 これは、後で少将にどやされそうだ。
注文の後、彼は私の方を見て少し笑った。 ちょっと生意気な、含みを持った笑顔。 こんな子に育てて、親の顔が見てみたい。
そう思いかけて、いつも見ているじゃないかと、思い直した。
私は半ば燃え尽きた煙草を灰皿で押し消した。 そして、テーブルの上の煙草の箱をポケットに。
「いつも吸うんですか?」
何かと思って彼を見る。 彼の視線の先は、ポケットに突っ込んだ片手。 その手の中には煙草のケース。 それで、私にも合点が行った。
「いや、時々だけね・・・。」
確かに軍では吸っていないから、不思議に思われても仕方ない。 そう言う意味では、私は軍では良い子をやってるのかもしれない。
そう言う意味では、彼と変わらない。 育ての親やら恋人やら、どちらか知らないが彼のその人への態度。 私の軍での態度とそれは、良く似ているように思えた。
「自分から不健康になるなんて、馬鹿な話だと思わないか?」
自虐的に、私は笑った。 煙草のことだけではなく、見えてきた自分の色々へ向けて。 そんな私に、彼はいつもと違った笑みを見せた。 悪い女のするような、媚と打算を含んだような笑み。
「分からないでもないです。」
歌うように言って、彼はグラスの酒を一口。 上下する喉が、酷く淫靡に感じられた。
グラスから離れた口が、半開きに息を吐く。 艶を含んだ声が、私の耳に微かに響いた。 潤った唇を、彼は蛇のように細くて赤い舌で舐め、此方を一瞥した。
「飲まないんですか?」
背筋がゾクッとした。 誘っているのか、それともコレが彼の習性なのか。 どちらにしても、恐ろしい子だと思った。 そう思えているのは、私の頭の片方でもう片方はもう彼に飲まれている。 彼を、欲している。
「出よう。」
私は、カウンターに紙幣を一枚置いて彼の手を取った。 彼に魅了されても、自分のペースを守りたい。 そんな卑怯さが働いていたのかもしれない。 まぁ、どちらにしてもそう思えるほどには、私は冷静だった。
私はもう一本、煙草を取り出して火をつけた。 司令も、イクティノスも、ディムロスも、知らない。 私がこんな不健康なことをしているなんて。 可笑しくなって笑みが零れた。
「非生産的だと、ハロルドには言われるよ。」
細い手を引いて歩きながら、私は言った。 すぐ後ろを離れずについて来る彼は、暫く考えてから応えた。
「無駄を楽しむのが人間だ、って僕は思いますけど。」
なるほど、と思って私は笑った。 一吹かししただけの煙草を投げ捨てて、大きく息をつく。 そして彼の手を引き寄せて、抱き寄せた。 少し驚いたようで、彼は目を丸くした。
その亜麻色の目を、じっと見詰める。 だんだんとその頬が赤く染まっていくのが面白い。
細い顎を優しく掬い、ゆっくりと顔を近づける。 そっと唇を重ねる。 そして、触れるだけでそっと離れる。
「・・・目を瞑るものじゃないですか?」
彼が先程と同じように唇を舐める。 やはり、彼はなかなか乗せられない。 苦笑して、私はもう一度キスを落とした。
半開きの彼の口を、舌で犯していく。 唾液の混ぜ合わされる感覚が心地よく、彼の温かみが伝わってきた。 自分の口元からの水音が、お互いに耳に酷く卑猥に響く。
離れると、彼の吐息は微かに荒かった。 潤んだ目が、こちらを見ている。
私は優しく笑いかけると、そっと彼を抱きしめた。
此れも随分、非生産的な行為だと思った。
子を成せない組み合わせで、身体を重ねて。 何になるのかと、自問自答する。 しかし、答えなんて出ない。
「うんっ・・・・はぁっ。」
彼は、何を思って私の胸の中で腰を振っているのだろう。 無駄を楽しむのが人間。 そう言いつつも、無駄を楽しんだことなんてなさそうな彼。 生きるか死ぬかで育った彼には、きっと無い。
生殖を伴わない以上、この行為は必要ではない。 ならば、代わりの何らかの得るものが、あるのだろう。 しかし、其れは何なのだろうか。
其れが快感だと言うのなら、其れはあまりにも空虚ではないか。 私は彼を見詰めながら思った。
「シャルティエ。」
その名を呼べば、空ろな目が此方を向く。 もう、明晰な頭脳も働いてはいないのだろう。 彼は、舌足らずに喘ぎを洩らすだけ。
彼の細い腰に触れる。 そうすると、彼は震えて声を挙げた。 その淫靡さに流される私は愚かだと思う。 釣られて、腰を突き上げる。
「ふっ・・・ひゃぁぁあ。」
だんだんと理性が剥がされていく。 自分が、自分で管理できなくなる。 それは、私にとってはとても恐ろしい。
「・・はっ、ふっ・・・かっ、カー・・・・レルぅ。」
大きな瞳から涙が落ちる。 理性が堰き止めていた涙が、零れるのだ。 彼の理性も、既に無い。
「シャルティエ。」
優しく呼んで口づけすると、貪るように私を受け入れた。 激しく打ち付けると、彼は姿勢を保てなくなり私に寄りかかる。 熱い吐息が、私の耳にかかった。
私が一際奥を貫くと、中もびくりと反応を示す。 そして、彼は大きく震えて、身体を弓なりにそらした。
「やっ・・・ダメ・・・もっ・・・・・・。」
甲高い声で二、三度呻き彼は果てた。 その姿を眼前に、理性を剥がされた私も彼の中に精を放った。
「ふぁっ・・うん。」
余韻に震える彼を、そっと抱く。 私の胸の中へと落ちていく彼。 疲れた様子で、そのまま眠ってしまいそうだった。
「うううっ・・・・んっ。中じょっ・・・。」
私が自身を引こうとすると、彼は縋るように中を締め付けた。 驚いて彼を見る。 彼の目は、まだ淫靡に光っていた。
「まだ・・・。」
甘い声を耳元で零す。 私は、彼の細い体を抱きしめた。 応えるように、彼は私を中に埋めていく。
「困った子だ。」
そう呟いて、キスをして。 私はまた、無駄な行為に戻るのだ。
「煙草、良いんですか?」
ゴミ箱へと放るのを、彼はベッドから見ていた。 白いシーツを一枚纏っただけの姿は倒錯的で、酷く眩しい。 そんな彼に、私は笑いかけた。
「同じ無駄なら・・・わざわざ、不健康になることはない。」
何か可笑しかったか、彼も笑った。 そして、私に寄りかかりキスを求める。 触れるだけのキスをして、私は笑う。
「まだ目を開けてしまった。」
いつものように唇を舐めて、彼は薄く笑んだ。 やはり、酷く淫靡な笑みだった。
困ったものだと、私は再び内心で苦笑する。 彼のお陰で、余計な事が頭から離れない。
仕方なく、もう一度キスをする。
こんどはちゃんと、目を瞑って。
あぁ、そうか。
あの無駄な行動は・・・・
無駄が好きな可笑しな生き物を
ただの生き物に戻してくれるんだ。
あとがき 裏祭り。 第三作目ですね。カーシャルって、初?二回目? まぁ、とりあえず久々って事ですね。 シャルは相変わらず積極的ですね。 まー、彼が健気受だったら嫌いですから。 自分の身体を良く分かって武器にしてるんでしょうね、この子。 煙草と非生産的って、なんだっけ・・・。 あっ、からくりサーカスだ。ジョージだ。 そう言えば、ジョージ死んじゃったじゃん。好きだったのに。 寂しくなるねぇ。まぁ、英了に期待かな。 あっ、からサー語りしてしまいましたね。すみません。 未曾有の長さのあとがきでしたが、この辺で。
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