明日をも知れない人だから



「九死に一生、或いはこうのとりの歌」の続編





「それでさー。」
「・・・。」
「流石にあたしも焦って、一応命に関わるから。」
「・・・。」
「まぁ、大したことじゃないんだけど。」


アトワイトは勝手に俺の部屋にやってきて、勝手に俺のベッドに寝そべりながら、勝手に話をしている。俺が聞いているかどうか、俺が今聞ける状態かどうか、には興味がないような様子で。


俺、今、ちょっと真面目に資料読んでんだけどな。ちゃんと目通しとかないとイクティノスうるさいし。


「勿論、その時は皆して結構必死なのよ。ほんとに。」
「・・・。」
「でも、今思い出すと笑えちゃって。」
「・・・。」
「・・・。」


あれ?急に黙った。どうしたかな、と思って振り返ると、アトワイトがこっちを見てにやけた顔をしていた。くそ、こんなのに引っ掛かるとは。


「何だよ、その顔。」
「美人は生まれつき。」
「自分で言っててどうよ?」
「そういう気の利いたこと言ってくれる男がいないもんで。」


思ってはいるけど、と我ながら馬鹿なことを思いつつ、机に向かう。緊張を切らしてしまったお陰で、資料の文字は頭に入らない。口を開く。


「それにしても。」
「んー?」
「お前、よく一人で一時間も喋れるな。」
「あ、そんなに?」
「そんなに。」


お陰で今日一日病院で何があったか細大漏らさず分かってしまった。多少、資料の内容と混ざってるところがあるかもしれないけど。てか、実際それまずい気がするけど。


「黙ってた方が良い?」
「別に。」
「まー、邪魔なら言うか。」
「だろうな。」


この女に気を遣っても仕方ない。こんな人間と一緒にいたいと思う奴が悪いのだから、俺は別に接し方を変えるつもりはない。というか、変えているつもりはない、だな。あんま自信ないけど。


「ただ、同じ話二回してたろ。」
「え、どれ?」
「弾が肩に入ってた話。」
「あ、そうだった?」
「んー。」
「て言うか。」
「ん?」
「意外と話聞いてるんだ。」
「・・・。」


俺はこんなにきちんと人の話を聞く人間じゃなかった。いや、ちゃんと聞いてるつもりはないんだ。こいつの声だと勝手に頭に入るだけで。いや、どっちにしても癪だ。


「あ、そだ、院長にばれた。」
「へー。」
「てか、ばらした。」
「何で?」


この女が職場でのろけてる様子は想像できない。というか、仕事中はヘラヘラしてる割に真面目だからな、こいつ。まぁ、有能で真面目じゃなかったら、この歳で中佐はないわな。俺みたいに親の七光りがある訳じゃなし。


「あんたが重傷で運ばれてくるとするでしょ?」
「縁起でもねーな。」
「最後まで聞く。」
「はーい。」
「で、オペが必要ですということになるじゃない。」
「なるほど。」
「その時に、あたしが執刀することになると困るから。」
「・・・。」


いつも不思議なのは、この女が俺に対して明け透けに弱さを見せてくること。普段の強いイメージとは対極な姿を見せられて、俺はどうして良いもんか分からなくなる。


俺が黙ったら、アトワイトも黙った。今気付いたけど、勝手に喋られるより黙られる方が気になるな。この女が俺の部屋で静かにしてて、多分こっちを見てるって状況はなかなか落ち着かないものがある。


「何か言えよ。」
「あんたこそ。」
「・・・。」
「・・・。」


また沈黙。そういや、俺が砲撃で吹っ飛んだ時、こいつ確か泣いてたな。この強い人間が俺の様子一つ、生き死に一つで、どうしようもないことになってしまうんだな、と思うと不思議な気持ちになる。


「馬鹿なこと言って良い?」
「前もそんなんあったな。」
「あ、そういえば。」


それっきり黙ろうとするアトワイト。そうやって途中で言葉を止められると気になってしまう。振り返って、目が合う。


「続きは?」


アトワイトは喋る様子もなく、こっちを見ていた。俺も同じように、アトワイトを見ていた。


俺が席を立ったのと、アトワイトが起き上がったのは同時で、少しずつ互いに距離を詰める。視線は外さない。相手の一挙一動を逃すまいと見詰め続けている。


そして、距離がなくなる。唇が重なる。


もう資料を読むのは諦めている。大人しくイクティノスに怒られよう。


今はもっと大事なことがある。











あとがき
ハロアトです。
アトワイトが言おうとした馬鹿なことは、まぁ、大体想像つくと思いますから、書かなくて良いよね。このカップル息ぴったりだから、結構同じタイミングで同じこと思ってたりするので。
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