・・・第一章・・・
トーマス=ウォーラは寝不足で不機嫌だった。
別に長い時間眠りたいわけではない。
ただ、人に起こされるのが嫌いなこの男は、それだけで睡眠不足な気になってしまう。
戦況報告を聞くにつけ、劣勢に頭を掻く。
数百、数千単位の防衛部隊は、五万の地上軍の前になすすべなく撃破されていた。
旧時代の格闘武器中心の地上兵に、最新装備の天上兵が手も足も出ない。
「で、ミクトランの方は済んだのか?」
彼は敬称もなしにそう呼んだ。
天上広しと言えど、ミクトランを呼び捨てられるのは彼しかいない。
20年来、叛乱を起こした時からの側近の彼一人だけ。
「えぇ、もうじきいらっしゃいます。」
厳しい戦闘装備に着替えつつ、ドレークは答えた。
恥ずかしげも無く肌を晒す彼に、目のやり場に困ったウォーラは、不機嫌そうに目を逸らす。
其の様子が可笑しくて、彼はくすくすと笑みを零した。
妻子持ちだった事もあるウォーラにとって、男はその手の対象では無い。
しかしだからと言って、ドレークの綺麗な体を直視出来るほど達観していなかった。
ただ無表情な顔を僅かばかり歪めて、ウォーラは地図を睨んでいる。
「五万は囮ですよね。」
「あぁ・・・小部隊でミクトランを殺りに来る・・・だろうな。」
上着の釦を留めながら、ドレークは彼の横顔を覗き込む。
何の反応も見せず、彼は難しい顔でなお地図を睨んでいる。
そのウォーラに、ドレークは再び話しかけた。
もうすでに、出て行って戦う準備も済んでいる。
「参謀総長閣下、ご命令は?」
「じゃ・・・・ミクトランを死なせるなって事で。以上、行け。」
ウォーラは、追い払うようにドレークへ手を振る。
呆れ顔でそれを見ながら、ドレークは出て行く。
見送りながら、ウォーラは一言付け足した。
思いついた、思い出した、と言うよりも言う機会を探していたような一言。
「死ぬなよ。」
ドレークは足を止め、満面の笑みを返した。
これから、一個師団を率いて死闘をする男には、とても見えない笑み。
「ウォーラさんも、お元気で。」
遠くへ旅立つような別れの言葉。
互いに何も言わず、ドレークは出て行った。
その背中を見る事無く、また彼は地図へ目をやる。
その表情は、当事者でありながら、何処か第三者のようだった。
溜息を一つ、少し落ち着きたかった。
懐に手を入れ小さな紙箱を取り出す。
取り出して、空と分かって握りつぶし、そこらへ適当に放ってしまった。
「死に急ぎやがって、どいつもこいつも。」
不機嫌そうにつぶやく声は、慌しくなった参謀本部の喧騒に、掻き消されていった。
次々と入る斥候からの戦況報告、指揮官の戦死の情報、住民避難の進行状況。
もう、ここまでか・・・・ねぇ・・・・・。
喧騒の中で、ウォーラは笑った。
自分のこれからを、天上のこれからを、揶揄するようなそんな笑みで。
あとがき
天上劣勢ですね。
何で天上が三万足らずかって言うとですね。
地上の占領軍に多くを回してしまっているからなんですよ。
地上軍五万は、四個師団二個旅団ぐらいのイメージで。
主兵装は剣、槍、弓、あと少々の携行銃器。
天上は、自動機械兵器と大型火器とかって感じ。
あぁ・・・・戊辰戦争やらラストサムライっぽい。(笑)戻る