カーレル=ベルセリオスは弟思いだった。 それはもう、唯一の肉親だけあって異常なほど。
「十五年か・・・。」
だから、弟が初めて研究室を貰った時も、我が事のように一緒に喜んだ。 そして、昇進の度に何らかの祝い事をしては騒ぐ。 いつも、いつも一緒だった。
弟、ハロルドも兄思いだった。 ただ、それをなかなか表に出さないだけで。 兄に何かあれば、どんな研究でも放り出して飛んできた。 本当に、いつも一緒だった。
悲しい時や辛い時も。 今年もまた、その辛い日が来る。 彼らの人生が変わった日。 その日から十五年目の夕刻だった。
「久しぶりだね、父さん母さん。」
焼け野原の跡に立った小さな教会の傍らに、二人の兄弟はいた。 目の前には、こじんまりとした墓石が一つ。 雪の薄衣を羽織って立っていた。
彼らが墓参りをするのも、一年振りになる。 本当なら、命日だけでなく来たいところだが、それは軍務が許さない。 15年前の無力な子供は、二人が二人とも今は、責任ある立場にいる。
「兄さん。」
随分長い時間、墓石の前から動こうとしない兄を、ハロルドは嗜めた。 雪が降り始め、気温も下がってきている。 コートの前を閉めながら、彼は白い息を吐いた。
「もう行こう、冷えてきた。」
カーレルはなお、動こうとしない。 ちょっとイラついて、ハロルドは兄の肩を強く引いた。
頭脳は互角。 最近では、力は弟の方が上になっている。 いとも容易く、カーレルは向き直された。
「兄さん?」
カーレルに何が起こったか、分からないままハロルドは尋ねた。 未だに、カーレルは反応を示さない。 何か考え込んでいるように、弟の眼には映った。
程なくして、やっとカーレルはハロルドに気がついた。 昔からそう、考え込むと何が起こっても思考を止めない。 傍目から見て、比較的まともそうに見えるだけに、兄のこの癖はたちが悪い。
「寂しいな。」
不意にカーレルは呟いた。 どうやら、さっきからそれを考えていたらしい。 ハロルドは、呆気に取られた。
「何年経つと思ってんだよ、遅いだろ。」
さっきまでのイラつきを乗せたハロルドの言葉。 それも、カーレルには通用しないらしい。 また、カーレルは「寂しいな」と繰り返した。
「寂しいな。」
その声の響きは、真っ暗な洞穴の風のよう。 兄の言葉を聞くうち、ハロルドの心には真っ暗な穴が明いたようだった。
天才は天才を呼ぶという。 しかし、天災まで呼ぶとは彼らも思わなかったらしい。 降り出した雪は吹雪となって、彼らを村へと閉じ込めた。
やむなく、墓地の隣の教会に入って二人は、雪の止むのを待っていた。 小さいくせに、調度品もないせいか教会は妙に広かった。 村の者に聞くと、神父は隣町の葬式に行っているらしい。 つまりは、教会には彼らしかいない。
当然ながら、暖炉に火は無く。 ただ、寒さに身を寄せ合って二人は座っていた。 生まれ故郷ながら、見ず知らずの人々しか回りにはいない。 軍人が、民間人に物資を恵んでもらうことなど出来ない。
「何で・・・寂しいの?」
思い出したように、ハロルドは尋ねた。 真っ暗な洞穴の風のような兄の声が、彼の耳からは離れない。 それは、そのまま兄の心の闇のような気がして。 いや、二人の心の闇のような気がして。
カーレルは、首を横に振った。 何でもないとでも言いたかったんだろうか。 しかし、暫くして彼は再び呟いた。
「何でだろう?」
その答えが、弟にはもどかしかった。 感情を共有できなかった事が、自分達の間の隔たりのように感じられて。
彼は、じっと兄を見詰める。 ハロルドのアメジストの瞳には、兄のアメジストの瞳が映っていた。 不意に手を伸ばし、兄の頬に触れる。 雪のように白い肌。
「兄さん。」
彼は呼んだ。 唯一の肉親である、双子の兄の名を。 カーレルは、ゆっくりと振り向いて微笑む。 それが、酷く寂しげな笑みでハロルドは見ていられなかった。
「兄さん。」
少し語気が強くなる。 そして、今度はもう片手を首に回しそっと唇を重ねた。 カーレルの目が丸くなる。 そして、微かにポーカーフェイスに朱が差した。
そして一度離れ、二度目はもっと深く口付ける。 そして、頬に触れていた手は、ゆっくりと首筋から兄の身体へと下りていった。
「やめっ・・・・。」
抵抗を忘れていたカーレルが絶句したのは、下腹部への刺激の所為。 下りていった弟の手は、迷いなく下着の中へ入っていた。
「ちょっ・・・ハロルド。」
少々混乱しつつ、カーレルは今更の抵抗を試みる。 しかし、先程実証された通り、いつの間にか力の差は歴然。 緩く胸を押すだけでは、どうにもならない。
そのうちに、兄の自身は刺激への反応を示していく。 その感触に、弟は微笑んだ。
「嫌なの?」
弟にしてみれば、嫌であるはずが無いと思った。 カーレルは何かと理由をつけて、周りの仲間と関係を持っている。 その兄が、相手が弟だからと殊更嫌がる理由が無いと思った。
「慰めてあげるから。寂しくないから。」
言い聞かせるように、自分とそっくりの兄を追い立てて行く。 彼にしてみれば、深い意味はなかった。 寂しさを紛らわせてやる術が、他に思いつかなかっただけ。 だから、兄の痴態には別段何も感じなかった。
「あうっ・・・やっ、やだ。」
でも、次第にもどかしくなった。 凛として、気侭で、優しくて、しっかりした兄は目の前にいない。 目の前の欲望に流されるだけの、情け無い生き物。 それが、妙に腹立たしかった。 兄を抱いた者が原因なら、それが憎かった。
「兄さん。」
苛立ち加減に呼びかけながら、彼を抱きしめる。 動かす手を速くして、さらに追い詰める。
あられもない声を挙げる口を、自分の口で塞ぐ。 他人に、こんな声を聞かせたくはなかった。 兄のこんな姿は、自分だけが知っていればいいと思った。
カーレルが身を震わせ、絶頂が近いと思った時。 急にハロルドは押し倒された。 抵抗らしい抵抗もなくなって、油断していたらしい。
教会の石畳の上にハロルドは倒された。 その上には、半裸の兄の痴態があった。
「ハロルド・・・・。」
艶っぽい声で、彼は弟を呼ぶ。 その声で、もう二度と他人を呼んで欲しくない。 ハロルドはそう思った。
カーレルの手が、ハロルドの服をずり下ろした。 唐突なことで驚いて、ハロルドは兄の手を掴む。 それを気にも留めず、服は剥ぎ取られた。
「・・・兄さん。」
カーレルは、下半身を露にさせると弟のそれを咥え込んだ。 愛しげに、赤い舌でそれを愛撫する。
上目遣いに、快楽に潤んだ目がハロルドを見ていた。 そんな目で、他人を見て欲しくないと彼は思った。 そんな目で見るのは、自分一人で十分だ、とも。
「良いよ、兄さん。」
愛しげに、兄の髪を撫でる。 そうすると、カーレルは顔を上げて薄く微笑んだ。 そして、弟の肩に縋るようにしてキスをする。
キスは次第に深くなり、カーレルの腕は弟の細い首に回された。 ハロルドの手は、引き締まった綺麗な腰を強く掴んだ。
キスをしながら、ハロルドは兄の後孔を探った。 快楽への条件反射で、すでに其処は濡れていた。 自分の知らぬ間に、変わってしまった兄の体をハロルドは嘆いた。 誰も触れさせたくないと、彼は心から思った。
「良い・・・よ。」
兄が、絶え絶えの息の中言った。 ハロルドは黙って頷く。 触れ合う胸越しに、互いの鼓動が伝ってくる。 同じリズムが二つ。 やはり、隔たりなんて無いと確信する。 だれよりも、兄に近いのは自分だとハロルドは叫びたかった。
兄に導かれるまま、少しずつゆっくりと二人は繋がっていく。 圧迫感に震える兄の身体を、ハロルドは抱き締めた。 ある限りの力一杯に。
「あっ・・・・んんっ。」
甘い声が、耳元で囁かれる。 そのうちに、兄の方が焦れた。 強引に腰を進め、喰らい付くように飲み込んだ。
「あ・・・・うっ・・・あんっ。」
甲高い声を上げ、カーレルは仰け反った。 待っていた刺激に、堪らず兄は力なく吐精した。 吐き出された白濁が、二人の服を汚す。
荒く息をつき、カーレルはハロルドに再びしがみつく。 熱い息が、耳にかかる。 兄が自分を感じているのが、彼には満足だった。
「動くよ。」
休ませたりはしない。 ハロルドは、逃がさないとでも言うかのように兄の身体を強く抱いた。 それに応えるように回される腕。 彼は、それを不思議なほど愛しく感じた。
また、キスをする。 息を混ぜあうような、深いキス。 ハロルドが腰を上下させる度、鼻にかかった甘い声が響く。 外は吹雪で、まだ暫く出られそうにない。
ゆっくり・・・しよう、とハロルドは思った。
兄が、二度と寂しくならないように。 ずっと自分といられるように。
他の誰でもなく、一番近くにいる、自分と。
あとがき。 マシな方です。 以前のは、もっと酷いものでした。 何て言ったって、情事のシーンで始まって、それだけの小説ですから。 って言うか、これも大して変わらないですけどね。 話ごとにカーレルの性格が違いすぎて困ります。 どうしよう・・・。 |