密なれど親ならず。秘でもない。

カーレル・ベルセリオスとディムロス・ティンバーとは、大変に親密な関係にある。

そのような噂が地上軍中央に広がったのは、二人の若手将校が地上軍の次世代を担う存在として知られるようになったのと殆ど同時期だった。勿論、ここで言う「親密」というのは、ただ仲が良いとか気が合うとか、そういうことを意味しているのではない。

「来ていたんですか、ディムロス。」

カーレル・ベルセリオスは帰宅した時、鍵が開いていたことにも、部屋の中にいたのが数日前まで最前線で戦っていた男だったことにも、驚いた様子を見せなかった。

「ああ。早く着いてしまったから、他にいる部屋がなかった。」
「そうでしたか。」

驚かなかったのには、いくつか理由がある。一つ目は、彼の部屋の合鍵を持っている人間が三人いること。二つ目は、合鍵の持ち主のうち二人、父親と双子の弟は不在であること。三つ目は、合鍵を持っている最後の一人が配転で中央に戻ってくるということを知っていたこと。

そして、最後に、帰宅して鍵が開いていることに気付いた瞬間に、それらのことを整理できる頭脳を彼は持っているということ。

「サマラ中部にいたはずですよね?どうやって?」
「鹵獲した敵戦車を送る臨時の夜行列車に便乗した。」
「運が良いんですね。」
「ああ。」

ディムロス・ティンバーは質問に答えながら、手早くコーヒーを淹れて帰宅した部屋の主に出してやった。その様子からは、他人の部屋という感じがしなかった。

「すみません。」
「大した手間ではない。」
「配置は、歩兵学校でしたっけ?」
「ああ。前任は新設部隊に引き抜かれていったらしい。」

あれこれと言葉を投げかけるのだが、ディムロスはあまり興味のありそうな回答をしなかった。別段、彼が無口だということはない。性格と能力からすると、どちらかと言えば雄弁な方だった。要は会話を楽しむ、というつもりがないのだ。

程なくして、カーレルは世間話を諦めたらしく、溜息をついてソファーに身を投げ出した。普段の、穏やかな優男の雰囲気が少し変わる。紫水晶のような瞳に冷たいものが映った

「自分から押しかけてきておいて、随分愛想がないんですね。」
「私と楽しいお喋りがしたいのか?」
「貴方はそうやって物事をシンプルにしすぎる嫌いがあります。」

やはり、この人とは根本的に合わないものがある、とカーレルは思っていた。指揮官としての類稀な能力は認めないわけにはいかないが、物の考え方について相容れない部分が大きすぎた。

「貴方を我々の側に迎えたことを、たまに後悔します。」
「勝手に派閥に引き込んでおいて良く言う。」
「利害は一致していたでしょう?」

カーレル・ベルセリオスはリトラー派に将来有望な指揮官を引き入れたかったし、ディムロス・ティンバーは地上軍の中で上を目指すために人脈を作る必要があった。

「その点は認めるが、手段については同意していない。」
「過ぎたことを何度も蒸し返す人は好みではありません。」
「その冗談は笑えない。」

ディムロス・ティンバーを引き入れるためにカーレルは、彼らが親しく関わっているという噂を流した。加えて、いくつかの情況証拠を作り、信憑性を高めた。しかし、カーレルにとって誤算だったのは、噂に尾鰭が付きすぎてしまったことだった。

「匙加減を誤ったことは認めます。」

一通り人の耳と口を経由してカーレルのところに戻ってきた噂は、本人が意図したものとかなり異なった内容になっていた。彼は情報工作の難しさというものを実地で感じ、かくして二人は「大変親密な仲である」と広く知られることとなった。

勿論、噂の尾鰭はカーレルの計画にとってプラスにこそなれマイナスにはならなかった。反リトラー派は、カーレルと親密な関係にあるディムロスを完全に敵と見做したし、ディムロス自身がリトラー派に加わる決意を固めるより先に、周囲は彼をそのように見ていた。

「大いに反省して欲しいものだ。」
「ただ、今となっては同じことではないですか?」

カーレルが皮肉っぽく笑う。

「現状のみを以ってそういう評価を下すのは安易ではないのか?」
「では、しないんですか?」
「そうは言っていない。」
「するんですか?」

する。しない。何を?
何のことはない。ちょっとした弾み、若干の好奇心、関係を深めるという打算と言い訳。それら色々な要素が、噂を現実化した。勿論、彼らの関係は愛に溢れたものではなかったが。

「物事をシンプルにするな、と言ったのは誰だ。」
「野暮な台詞ばかり良く喋るんですね。」
「全く。。。」

ディムロスが初めて感情らしきものを滲ませた。困惑と呆れ。目の前の男は明らかに自分を誘っていた。この辺りの駆け引きを楽しむ者もいるのかもしれないが、彼はそういう部分が苦手だった。溜息を吐いてカーレルの華奢な肩を掴む。

少しの身震いと共にカーレルは期待に満ちた表情を見せた。このスキモノめと内心で嘲笑したものの、ディムロスはすぐに考えを改めた。この男を馬鹿に出来るほど、自分も立派な人間ではない。











「地上軍屈指の頭脳」との呼び声高いカーレル・ベルセリオスにとっての誤算は三つ。まず、噂に尾鰭が付きすぎてしまったこと、次に駒として利用するつもりだった男と寝てしまったこと。

尤も、これらは大した問題にはならない。プライベートに関わる評判など気にする必要はなかったし、彼は身体の関係があるからと言って情が移ってしまうタイプでもなかった。重大なのは三つ目の誤算。

「あっ、あああっ、も、無理っ。許し、あああっ。」

恐らく他の誰も聞いたことがないような哀願の声だった。怯えたような目には自分を犯している男が映る。鳥肌の上を汗が流れた。既にカーレルは三度射精していたから、与えられる愛撫は半ば以上苦痛でしかなかったが、常軌を逸した感じ方は衰えなかった。

「無理なことはない。」

ディムロスも先程までの冷淡な目をしていなかった。性的に淡白とまでは言わないが平均以上でも以下でもなかった彼は、目の前の青年を抱くことで自分が変わっていってしまっていることを感じていた。

悶えるカーレルの姿に嗜虐心を刺激されながら、思い切りペニスを突き入れる。先ほど出した精液が入り口の辺りで泡立っていた。

「ぐっ、ふっ。ううううっ。」

内部から内臓を押され、身体が神経を通じて悲鳴を上げる。それは痛みや苦しみや快感として処理され、カーレルの口からも悲鳴染みた声が漏れた。

カーレル・ベルセリオスの三つ目の誤算は、ただの堅物に見えたディムロス・ティンバーが、狂気を感じるまでの嗜虐心と絶倫ぶりを見せたこと。しかも、それによって自分がこれまで経験したことがない程に感じてしまったこと。

「あ、い、く。あ、あ、あ、あ、イク。イク。ひっ、はっ。」

直腸を押し広げられ、乳首に爪を立てられ、舌を噛まれた。四度目の射精を迎えようとした時、潰れるほど睾丸を圧迫された。意識が遠のくような苦痛と共に、それを上回る快感で身が震えるのが分かった。

「もっとだ。」
「ダメっ。無理っ。無理っ。」

怯えて首を横に振るカーレルの顔は涙と唾液で酷い状態になっていた。滲んだ視界の中に全く萎えていない自分のペニスが入り、恐怖の対象が変わる。自分を痛めつける男よりも、自分自身の身体の方が恐ろしかった。











翌朝。
ディムロス・ティンバーが目覚めた時、カーレル・ベルセリオスは既にベッドにはいなかった。既に身支度を整えてデスクに向かい、今日のスケジュールを確認している様子だった。

彼は見た目の華奢さに反して身体が丈夫な方だった。一晩中痛めつけられたにも関わらず、翌朝にその影響が残ることはない。

「目が覚めましたか。」
「ああ。」
「久々の後方はどうでした?良く眠れました?」
「それなりに。」

カーレルの問いかけに対して、天上軍と同じくらいの難敵が相手だったから、という冗談をディムロスは思いついたが、場にそぐわないと思って言葉にしなかった。

「仕事がありますから、長居しないでくださいよ。」
「分かっている。私も着任の挨拶がある。」

目覚めた後の二人は、同じベッドで抱き合いながら眠ったとは思えないほど、甘さのない声で会話していた。

身体を重そうに起こしたディムロスは、カーレルより余程辛そうに見える。昨日脱ぎ捨てた制服を拾い上げ、二三度埃を払い袖を通した。前線を離れて間もない、少し気の抜けた青年将校が出来上がった。

「邪魔をしたな。」
「いえ、大したおもてなしもせず。」

それがカーレルの冗談なのか、定型句を口にしただけなのかは判断がつかなかった。見られていないのを良いことに、少し大袈裟に肩を竦めてディムロスは部屋を後にする。

「木曜日の夜は空いています。」

後ろから声がかかった。敢えて、意図的に事務的な色を強くした声だった。ディムロスは少しだけ足を止め、頭を掻き、溜息を吐き、やっと「ああ」とだけ返事した。やはりスキモノだ、と昨日の自分の判断を肯定する。

ちなみに、今日は火曜日の朝だった。







あとがき
密な関係ではありますが、秘密ではなく、親密でもない、という言葉遊びがタイトル。愛のない打算的なディムカーを考えていたんだけれど、なかなか難しいですね。普段よりもプレイの内容自体は濃い目ですが、表現は相変わらず薄めなので大したことはない。
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