眠れる紫水晶
その日は珍しいほどに暖かかった。
いつも空に掛かっている厚い鈍色の雲は微かに薄くなり、ほんの僅かな日の光を覗かせている。
地上はいつも通りの薄暗さながら、確かな温かさが空から降りてきていた。
と、そんな昼下がり。
「中将〜。」
いつもより一枚薄着のシャルティエが、会議室のドアを開ける。
整然と並んだ椅子に人影は無く、応えも返ってこない。
「中将〜、カ〜レル中将〜。」
やや高めの間延びした呼び声が、静かな会議室に響く。
やはり、返事は無い。
頭を掻いてキョロキョロと見回し、部屋の奥へと進む。
と、机の奥に紫色が垣間見えた。
「あっ、中将!」
駆け寄ると、壁に寄りかかり床に座りこんでいるカーレルが其処に居た。
彼は緩みきった顔で、すやすやと寝息を立てている。
呆れたシャルティエは、溜息をつく。
「全くも〜、中将は。」
彼は軍服の上着を脱いで、全く無防備なカーレルにかけてやる。
カーレルは、相当深く眠っているのか未だ全く反応が無い。
隣に腰掛けたシャルティエは、その寝顔をじっと見つめていた。
雪のように白く、軍人らしからぬ綺麗な肌。
印象的な春蓼色の豊かな髪。
髪と同じ色の長い睫毛が、横から見ると際立って見えた。
瞼を上げれば、アメシストの澄んだ瞳が覗くだろう。
あまりに綺麗な横顔に見とれたシャルティエは、少し躊躇い気味に彼の傍へと身を寄せた。
肌が触れるくらい近づくと、スースーと規則的な優しい寝息が聞こえてくる。
聞いているだけで落ち着くような優しいリズムが、シャルティエまでも眠気へと誘っていく。
ついつい彼は力を抜いて、カーレルに寄り掛かってしまった。
白い頬が、カーレルの柔らかい肩に触れる。
「あっ・・・・中将良い匂い。」
小さな鼻をピクピク動かしながら、ぼやけた声で呟く。
何だか重くなってきた瞼を、どうにかこうにか支えながら欠伸を一つ。
いけない、いけないと思いつつも、シャルティエはゆっくりと、ごくゆっくりと、心地好いまどろみの中に沈んでいった。
「んっ・・・ん〜っ・・・・・んあ?」
シャルティエは目を擦りつつ、寝ぼけ声とともに目を覚ました。
焦点の定まらない瞳で、キョロキョロと見回すと、眠っていたはずのカーレルが目の前に腰掛けて笑っている。
「おはよう。」
「はっ、はい。おはようございます。」
特に何をするとも無く、こちらをじっと見つめているカーレルに、シャルティエは欠伸をしながら尋ねた。
「あの・・・何してるんですか?」
「いや、可愛い寝顔だなぁってね。」
クスクスッと悪戯っ子のようにカーレルは笑って、シャルティエの隣に腰を下ろした。
何時の間にやら立場が逆になっていて、シャルティエは釈然としない。
「起こしてくれても良いじゃないですか。」
子供のようにいじけた台詞を冗談めかして言ってみる。
そうして、ふてくされて睨むとカーレルがまた笑った。
「君の可愛い寝顔に見とれてしまってね。」
唐突な言葉に、シャルティエの顔は耳たぶまで真赤に染まる。
その反応を楽しむように笑って、カーレルは彼をすぐ脇に抱き寄せる。
シャルティエは、再びカーレルの横顔を間近に見つめた。
「中将は、起きている方が良いです。」
「何で?」
「綺麗な眼が見えないと勿体無いです。」
カーレルは、その少し生意気な言葉に微笑みを浮かべ、もう一度シャルティエを抱き締めた。
優しく唇が重なり、僅かに喘ぎだけが洩れる。
「君は眠ってる方が良いな。」
唇を離して、カーレルは呟くように言った。
シャルティエは大きな瞳を艶っぽく潤ませて、尋ね返した。
「何でですか?」
「その生意気な口が塞がっていれば、もっと可愛いからね。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、また唇が重なる。
暖かな空間に、甘い時間が、喧騒を忘れさせるように、ただゆっくりと流れていた。
<この幸せが、続きますように・・・・>
シャルティエは、そっと再び瞼を下ろした。
綺麗なアメジストが、見つめていた。
あとがき
1100HIT鳴海コタロー様へ捧ぐ。
「なぁ、マコさぁ・・・あんた、甘々って何だか分かってんの?」
私は、独りで突っ込んでしまいました。
ぶっちゃけ可笑しいです。甘くないです・・・ね。
ウチのシリアスが辛く口だとすると、コレは中辛ですね。(微妙/汗)
告知・・・ほのぼのって何か、甘々って何か教えてくれる方募集中。