・・・第二章・・・
王宮前の通りには、人っ子一人居なかった。
遠くからの爆風が、路傍の草木を揺らすだけ。
ドレークは宮殿の二階の窓から、静かに通りを見ていた。
この通りの至る所に、七千人の兵士が配置されている。
ただ、一人の命を守るために。
「陛下は渡しませんよ。」
広い部屋に、低い声が響いた。
その声に応える者は、誰も居ない。
ドレークは剣を抜いた。
白く光る鋼が、天井のシャンデリアに眩しく輝く。
右手を前に突き出し、少し腰を落とした。
彼の独特な構えは、この部屋の入り口、小さな木の扉を狙っていた。
「出て来てくれても良いでしょう?
」
返事は無い。
促すように切っ先が揺れ、ドレークは一歩二歩と足を進める。
あと一歩で、彼の間合いの中にドアが入る。
ドアの軋む、低い音がした。
ゆっくりと警戒するようにドアが開く。
出てきたものが誰か分かると、ドレークは剣を下ろした。
「久しぶりですね。」
「えぇ、もう9年になります。」
呼びかけに応えたのは、着衣を真っ赤に染め、血刀を提げた青年だった。
ドレークの琥珀色の目には、その青年に見覚えがあった。
ピエール=ド=シャルティエ
その青年がまだ十にも満たない少年だった頃、その頃の彼をドレークは良く知っていた。
少年兵士として、共に戦った仲間だったのだから。
「良く此処まで来られましたね。随分と立派になった。」
ドレークが笑うと、シャルティエは黙って剣を構えた。
亜麻色の瞳が、真っ直ぐにドレークを射抜いていた。
鋭い剣気が、彼の殺気を乗せて突き刺さる。
その様子にドレークは溜息を一つ漏らした。
お互い変わったなと思う。
昔のように、部下が死ぬ度に沈む自分でもないし、殺す度に眠れなく彼でもない。
「私が強いのは、知っていますね。」
「退く事は、誰も教えてくれませんでしたから。」
薄く、氷の微笑をシャルティエは見せた。
心の闇を曝け出すような、真っ黒な笑顔。
それは、自分の人生を嘲るようでも、それを導いたドレークを笑うようでもあった。
爆音が轟き、窓が壁が砕けて散った。
地上軍の砲撃が、もう此処まで届いている。
砕けた壁から風が入り、二人の髪をさらさらと靡かせた。
「退きなさい。私に貴方を斬らせないで欲しい。」
沈黙が流れた。
思案顔でシャルティエは佇んでいた。
真っ直ぐ見つめる視線は、変わらない。
やがて、言葉に答えるようにシャルティエは剣を収めた。
顔は全くの無表情、冷たくドレークを見ていた。
動かない互いの間に、再び沈黙が流れる。
不意に、シャルティエは何か言おうと、口を開いた。
彼が喋り始めると同時に、二度目の砲撃。
床の一部に大穴が開き、煙が濛々と部屋を包んだ。
ドレークの背後で、衣擦れの音がした。
刺し貫くような殺気、危険を感じ飛び退くと、左の肩に熱が走る。
噴出す鮮血が、視界に踊った。
「聞こえませんでしたか?貴方のそう言う甘さが、昔から僕は大嫌いなんですよ。」
肩を押さえ、苦痛に顔を歪めるドレークにシャルティエは歩み寄る。
新たな血が、白銀の剣から滴り落ちていた。
苦しげに剣を構え、睨みつけるドレークをシャルティエは嘲った。
そんな必死さが醜くて、昔から嫌だった。
部下の亡骸を抱いて泣く姿が、昔からずっと嫌だった。
「貴方の甘さが、仲間を何人死なせました?今も、九年前も、その前も。」
静かにシャルティエは言った。
表情は殆んど無く、微かに口元だけが笑っている。
振り下ろされた剣が、高い金属音と共にドレークの防御を易々と崩した。
出血でふらつく足が、支えきれず後退る。
背が壁に着き、後が無くなる。
首筋に剣が突きつけられ、冷たい感触が伝わってきた。
「言い残すことは、ありますか?」
「死ぬ準備は・・・・・・いつでも出来てるつもりです。」
ドレークは寂しげに答えた。
何か憂えているような、死ぬ人間には似つかわしくない表情で。
シャルティエは剣を振り上げた。
陽の光に、白銀の剣の切っ先が眩しく煌いた。
風を切る音と共に、剣は振り下ろされた。
一発の銃声。
シャルティエの剣は、弱々しく空を切る。
彼の胸からは鮮血が噴き出し、返り血がドレークの肌を染めた。
互いの視界に、赤い飛沫が舞い散った。
ドレークの左手からは、硝煙が上がっていた。
それを見つめながら、シャルティエは倒れた。
久しぶりに見る空は、随分と青く目に沁みた。
その空が次第にぼやけて、霞んでいく。
「所詮は、いつまでも子供。冷徹な駒になど慣れはしないんですよ。」
薄れゆく視界に、ドレークの影が入った。
琥珀色の瞳が見詰めているのが分かる。
シャルティエは、如何にか苦しげに微笑んだ。
剣を取り、ドレークは構えた。
逆手に持った剣の切っ先は、シャルティエの薄い胸に突きつけられている。
再び、ドレークは口を開いた。
寂しげな声が、静寂に響いた。
「貴方も・・・・私もね。」
また爆音が響いた。
風が吹き、路傍の草木をさわさわ揺らす。
狂い桜の白菊が、はらりはらりと散っていった。
あとがき
戦闘シーンは苦手です。
好きなんですけどねぇ。
ドレークさんはデリンジャーかなんか隠してたんですねきっと。(苦しい)
しかし、シャルティエを死なすべきか生かすべきか・・・。
ご意見待ってます。
このまま行くと、彼は死にます。(笑)
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