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地上暦20年1月10日 地上軍中央本部 「これは?」 「んー。」 「捨てますね。」 「え、捨てんの?」 前にもこんなことがあった気がする。ディジャヴ?いや、実際にあった。確か一昨年のクリスマス辺りに・・・。 「迷ったら捨てるみたいな方針なワケ?」 「そうでもしないと片付かないでしょう。」 「でもなー。」 年末からハンゼへ出張していた私は昨日の夕方帰ってきて、そのまま寝てしまった。その翌日、つまり今日から遅めの正月休みを二日間貰う筈だったのだが、何故か彼の部屋の片付けをしている。 「あのさ、何か不機嫌?」 「貴方の部屋が散らかり過ぎているからじゃないですか?」 実際の所、多分違う。ただ全く的外れと言う訳でもなく関係はある。今朝私は彼の電話を掛けた。自室の壁から剥がした昨年分のカレンダーと新しく支給されたものを見比べて、彼此一ヶ月近く会っていないことに気が付いたからだ。 私とて木石ではない。彼と好き合っている(この表現が私には精一杯だ)以上、世間の人々のようにクリスマスをロマンチックになんてことはご免だがそれなりに顔を見たいと思ったり、声を聞きたいと思ったりする。最近恐ろしいのは、私が彼のことを好きだという事実に関して何ら違和感を抱かなくなったことだ。最早開き直りや自棄に近いものがある。 「これも捨てますよ。」 「えー、それはまだ・・・。」 「捨てますね。」 「・・・どーぞ。」 天上の鹵獲兵器から取ったと思われる電子部品をゴミ袋に放り込んだ。彼の部屋では床に落ちている物、テーブルの上の物、壁際の山になっている物、デスクの上に積んである物の順に重要度が低い。床とテーブルの物については殆ど許可も取らずに捨てている。 話が途切れてしまった。私が不機嫌な理由だ。電話を掛けた所、彼は出なかった。出かけているのかと思って彼の副官に問い合わせたのだが、自室に籠もり切りだと教えられた。となると、少し心配になる。彼は電話が長々鳴っているのを我慢できるタイプではないし、電話が煩わしかったら線を引き抜くぐらいしてしまう人だ。 それで、何かあったのかと慌てて駆けつけた結果がこれである。久々に会ったことに対して何か言うでもなく、心配して走ってきた様子に何か言うでもなく、「さっきから電話鳴ってんだけど見付かんないんだよね」だった。不機嫌にもなるし、強硬に片付けを始めたくもなる。 「あ、電話あったわ。」 床に積もっていた産業廃棄物の下から電話機が顔を出した。 この悪びれた様子のない軽さが腹立たしい。彼は本当に私が好きなんだろうか。仮に好きだとしたら、一ヶ月ぶりに顔を合わせた事や、私が急にやってきた事について何もコメントがないのはどういう心の構造なのだろう。 苛々する。彼の態度と、面倒臭い自分に苛々する。久々に会えた嬉しさを言葉にするとか、心配そうにやってきたのを気遣うとか、そんな事を彼がしないのは百も承知じゃないか。その辺も含めて彼を好きになったんだから、受け容れるべきなのは頭では分かるのだけれど。 「あんたさ、片付け好きなの?」 「別に。」 黙々と手を動かし続ける私と対照的に、彼は電話が見付かって満足らしく椅子に越し掛けてこちらを見ている。その視線を意識するのが嫌で、わざと彼に背を向けた。 「去年の暮れもこんなことしてたじゃん。」 「貴方が報告書を無くしたんでしょう?」 「あ、細かく覚えてんだ。」 「ええ。」 思い出とか記念日とか、その手のことに頓着しない彼が覚えたいた事が驚きだった。私としては、彼との仲を深める上で重要な日だったという認識があるから記憶に鮮明に残っているのだけれど。 「あれさ、ウソ。」 「どれ?」 「報告書失くしたの。」 「は?」 意味が分からない。手を止めて彼の顔を見る。別に何てことない話をしている顔をしていた。 「部屋に呼ぶ口実が欲しかったんだよ。」 「理解しがたいですね。」 「クリスマスだったし。」 「関係有ります?」 「好きな人と過ごしたくない?」 「産廃の山の片付け。ロマンチックの欠片もないですけどね。」 驚いて呆気に取られて、それから少し嬉しい事を言われた所為で憎まれ口を叩いてしまった。馬鹿だ。この一連の遣り取りで何となく彼の心情とか、案外気持ちを読み取ってたんだなと言う事が良く分かったにも関わらず、ダメな私。久々に会って、嬉しいことの一つも言って欲しかったんじゃないのか私は。 「そうか?」 「違いますか?」 「俺の感覚がおかしいのかもしんないけどさ。」 「・・・。」 「あんたといるだけで俺は結構ロマンチックなんだけど。」 腰を上げた彼は一つ伸びをして、笑顔でこちらに歩み寄る。私が手にしたままだった古い紙束をゴミ袋に放り入れ、片付け作業を再開した。屈んで床に散らばったプラスチックの破片を拾い集める背中を私はじっと見詰めたまま立ち尽くす。 「あんた片付け嫌い?」 「好きじゃないですけどね。」 背を向けたままで彼が尋ねた。私は一つ溜息を吐いて、足元の金属部品を拾い始めた。 「嫌いとも言ってないでしょう。」 あとがき 書き始めたら早かった感。ハロ君はヒモですけどツボを押さえてるトコがあるので、イクティノスも悪い気はしていません。イクティノスを上手く操縦している感じがしますよね。題名は良いのが思い浮かばなかったから英語の接続詞です。 |