彼と僕は、もしかしたら似ているんじゃないだろうか。
そんな事を時々思う。 勿論、立場だって素性だって違うけれど。 何故だか、何処かで自分と同じ匂いを、彼から感じる。
僕も彼も、戦災孤児。 違っているのは、そこから拾い上げてくれた人。 彼は、地上のリトラー司令だった。 僕は、天上のあの人だった。
もし、僕を拾ったのが司令だったら。 もし、彼を拾ったのがあの人だったら。 多分、今とは逆の僕達がいる。
でも、やっぱり似ていない。 彼は、顔色一つ変えずに命を奪う人。 僕は、兵士達からも笑われる臆病者。
目の前で両親を殺されたというのに、彼は何故怖くないんだろう。 幼い頃から殺す側だった僕が、今になっても怖いというのに。
「カーレル中将。」
廊下で、仕事帰りの彼を見つけた。 僕が呼び止めると、彼は微笑んで振り返った。 べったりと血がついているマントが、彼の動きに合わせて翻った。 僕が声を失っていると、彼は申し訳無さそうに頭をかいた。
作戦中に襲い掛かってきた刺客の血らしい。 つまり、それは彼が斬り捨てた敵の血。 そんな説明を、彼は笑顔のままで僕にした。
彼は、命を奪うことも全く恐れない。 僕は、背筋に冷たいものが走った。
「不思議かい?」
不意に、彼が尋ねた。 表情の笑みは、少し雰囲気を変えて微かに冷たく感じられる。 僕は、何の事か分からないまま彼を見詰めていた。
「人を斬ったと、軽く言うのが不思議かな?」
二回目は、少し詳しく尋ねてきた。 吸い込まれそうなほど深い紫の瞳が、見詰めている。 心臓を鷲掴みにされたような、そんな感じ。 僕は、おずおずと首を縦に振った。
ふふっ、と彼が笑う。 さも納得したという顔で、二三度頷いて僕の手を取る。
「おいで。」
僕は、拒むことすら出来ないまま、その手を引かれていった。
連れてこられたのは、彼の部屋。 昔、一度来たことがあった気がするけれど、随分雰囲気が変っていた。 何となく、昔に比べて生活感があるような気がした。
部屋を眺め回して、それから彼の方を見た。 ベッドの上に座って、なにやらマントを弄っているようだった。
「何を?」
僕が尋ねると、彼は僕の後ろを指さした。 振り返ると、彼の机がそこにある。 そして、指差されている先には、小さな硝子張りの箱が一つ。
「取って来てくれないかな?」
僕は、不思議に思いながらその箱を覗き込んだ。 箱の中には、透明な液体に浸された赤い糸の束が浮かんでいる。
一体何なのか、分からないまま箱を彼に差し出した。 彼は箱を受け取ると脇に置き、再びマントの方に戻った。
「これを、こうしてね。」
彼がマントの端を引っ張ると、血に染まった赤い糸が一本取れた。 そして、箱の蓋を開けて濡れた糸束を取り出す。 その糸束の中に、黒ずんだ新しい糸を加えて箱に戻した。 すると箱の液体に浸されて、黒かった糸の色が鮮やかな赤に変る。
「忘れないためにね、私が殺めてしまった人達を。」
忘れないように、彼はそういった。 彼が殺した人達を、忘れないために、と。
僕はもう一度糸束を見詰める。 その数百もの糸が、彼の奪った一つ一つの命かと思うと、何とも言えない気持ちだった。 何故か、それがなもの神聖のようにさえ感じてしまう。
「私が殺した人、死んだ仲間、巻き込まれて死んだ人、皆忘れてしまいたくない。」
さっきまで思っていたのとは、全く逆だった。 彼は死を軽く扱っているわけではない。 人一倍、彼は死を真剣に重く受け止めている。
言葉を失って、箱の糸束と彼とを交互に見詰める。 その糸の赤さは、何処か彼自身の髪の色にも似ていて、それが不思議だった。 まるで、彼の思いが反映されているかのような赤。
「・・・・・僕も。」
僕は、微かな声しか出なかったがそう言った。 自分が奪った命を忘れてしまいたくない。 忘れたくない、忘れてしまいそうになるから、僕は怖いんだ。 殺してしまって、それを次の瞬間には忘れそうで。 いつか、何も感じずに人を殺してしまいそうになって。
「そうか、君もか。」
彼が微笑んで、僕の頭を撫でる。 何故だか、安心したようなそんな眼差しで僕を見る。 多くの命を奪ってきた手なのに、彼の手は酷く繊細で柔らかだった。
「私だけが臆病なのかと思って、少し心配だった。」
その言葉に、僕も相好を崩す。 何処まで本気で、何処まで冗談なのか分からない。 もし全部本当ならば、やっぱり彼は僕と似ている。
拾われて、必死に戦功を立てて、生き残ろうとした僕と彼。 生きる場所を見つけるために、多くの血を流して、多くの命を奪ってきた。 それは、きっとこれからも変らない。
「明日も、任務かい?」
彼の問いに、僕は頷く。
明日も、僕は人を殺す。 ひょっとしたら殺されるかもしれない。 そんな不条理の中で、僕達は生き続けている。
「もしかしたら、これでお別れですね。」
半分冗談、半分本気で僕は言った。 笑おうと思ったけれど、何故か笑うことが出来なかった。
彼は、少しも笑わなかった。 真剣な表情で頷いて僕の肩を叩く。
「死んだら、仕方ないね。」
意外な事を彼は言った。 普通は、「死ぬな」とか「生きて帰れ」とか言う物だろうに。 それが可笑しくて、僕はやっと笑った。 笑い始めた僕を見て、彼は不思議そうな顔。 でも、漸く分かったらしい。
「皆、死ぬなと言うけれど、それは無理だからね。」
そして、彼も笑う。 誰よりも重く、誰よりも真剣に受け止めているから笑える。 誰よりも、死と向き合っているから笑うことができる。
「忘れたくないな、君を。」
彼が、呟くように言う。 忘れてしまいたくないのは、僕も同じ。 忘れたくないし、忘れられたくない。 そうだ、僕は思った。
ベルトのナイフを抜いて、左腕にそっと当てる。 刃がすっと肌を撫でると、赤いラインが浮き出した。 それを、彼のハンカチでそっと拭う。
「これが、僕です。」
赤く染まったハンカチ差し出して、僕は少し照れた。 少し台詞がくさかったかなと、僕は思った。 彼はそれを受け取って、そっと胸ポケットにしまった。
「忘れないよ。」
彼が僕の手首を掴み、そっと顔を寄せる。 不意の事で、僕は何やら分からないまま彼の接近を許した。 彼の綺麗な横顔が、掴まれた腕に近づく。 もしや、と思った時には遅く、彼の唇が浅い傷口に吸い付いた。
優しく、僕の血が彼に舐め取られていく。 自分の血が彼の一部になっていくかとを思うと、堪らなくゾクゾクした。
もし死ぬのなら、体中の血を全部彼に吸われて死んでみたいとさえ思った。 僕の血の全てが、彼の体と一つになる。 被虐的な快楽に、僕は引き攣った笑みが隠せなかった。
「美味しいよ。」
彼が上目遣いに僕を見る。 その彼の首に腕を回して、ぐっと引き寄せてキスをした。 鉄錆の味が、二人の口に広がる。 その味を奪い合うかのように、互いに舌を絡めた。
彼が、僕の上着の釦を外していく。 僕も、彼のマントを剥ぎ取り軍服を脱がす。 傷一つない、綺麗な裸体が目の前に晒された。
網膜に焼き付けるかのように、じっと彼を見詰めた。 この一分一秒も忘れてしまいたくない。 だんだんと、彼の肌が桜色に染まっていく。 きっと、僕も一緒だ。
「綺麗。」
彼が、僕の傷だらけの身体を見詰めて言った。 それを皮肉とも、厭味とも思わなかった。 出来ることなら、色褪せない記憶で僕を心に残して欲しい。 ずっと彼の中で生き続けていたい。
僕は、彼の穢れない身体に吸い付く。 高い地位にいながら、民衆と同じだけしか食べない細い身体。 この戦争の只中で、それは酷く清楚なもののように僕には思えた。
「んっ、ふぅっ・・・・上手だよ。」
彼の口から、艶のある声が漏れる。 音も、光も、感触も、匂いも、刻み込むようにして残しておきたい。 そして、彼の記憶に僕の存在を刻み付けたい。
「あんっ・・・あくっぅん。」
彼がまた傷を舐めた。 神経を直接触るような感触が、僕を痺れさせる。 彼は口を止めずに、手で僕の胸を撫でる。 壊れ物でも触るかのように、優しいタッチで撫でていく。
手が、ゆっくりと下に降りる。 ジッパーを下ろす卑猥な音が、耳に入って顔が熱くなった。
「やっ、うんっ・・・あうっ。」
彼が息を吹きかけて、僕は震える。 その反応に笑顔を見せて、彼は僕を見上げた。 艶に潤んだ目で見詰められただけで、何だかまた膨らんだ気がした。
「コレが欲しい。」
そういって、彼は僕に馬乗りになる。 一方的に倒されて、僕はただ彼がこれからすることを見ていた。
彼は、自分でズボンを下ろすと僕の手を取って彼自身に近づけた。 脈打つそれを掴みたくて僕が手を伸ばすと、彼はそれをさせずにもっと奥へと導く。
その奥の、彼の孔。 そっと、指先でそこに触れる。 熱くなって、微かにそこは弛緩していた。 唾を飲み込んで、ゆっくりと指先を沈めていった。
「あんっ・・・そう。私・・が、忘れないように、刻み付けて・・・君を。」
彼に夢中になりながら、それを冷ややかに見ている僕がもう一人。 こうやって愛されて、彼の一言で命も惜しくないと奮い立つ兵達を笑う。 その兵達の中の一人に過ぎない自分自身を、冷笑する。
何処まで本気なんだろう。 全て戦術の内だとしても、彼ならば不思議はない。 彼なら出来るし、やりかねないなと僕は思う。 兵達を奮い立たせるのが、彼の仕事であって、生きる道なのだから。
そんな思いも、彼の深いキスで吹き飛んだ。 どちらでも良いじゃないか。 下っ端は下っ端らしく、軍師閣下の策略通り動けば良いさ。 半分自虐、半分呆れで、僕は自分を内心で笑った。
「あうんっ・・・いやうっ。」
彼の手が、僕を少しきつく掴む。 肌理の細かい指先で、さらりさらりと磨くように撫で回された。 そして、されるがままに彼の後ろへ導かれる。
「あうっ・・・ふぅんっ。良いよ・・・早くっぅ。」
飲み込まれていた三本の指が、卑猥に光りながら出てくる。 先程まで入っていた中身を抜かれ、彼の後孔は寂しげに蠢いていた。 ドクン、と胸が鳴ったのが自分でも分かる。 僕は、自分から腰を動かして性急に彼の中に打ち込んだ。
「はっ・・・あっ・・・くぅ、んっ。」
声を抑えて、彼が僕の上で揺れる。 噛み付くような締め付けと、彼の中の熱さに思考がどんどん鈍っていく。 ただ欲求だけが、僕の頭を支配していく。
この彼の中の熱さは、一体何なんだろう。 これが彼の心の中の熱い気持ちなのか、それともこれも彼の策略なのか。
「あっつぅ・・中じょっ・・・・。」
跨って腰を振る彼に合わせて、僕も辛うじて動く。 その度に、全ての思考を吸い尽くされそうになり、代わりに快楽で頭を満たされる。
ギシギシとベッドが軋む。 彼の激しい動きに応えるように、痛ましく鈍く軋むベッド。 その音も耳に入らないくらい、彼は激しく乱れていた。
「あくっ・・・あうんっ。あっあぁっ・・シャルティ・・・エェっ。」
声を上げて、僕を呼び、彼が果てる。 それでもなお、彼は動きを止めようとしない。 止め処ない欲望を、白い液体に具現化して零し続ける。
その様は、眩暈がするくらいに艶っぽくて僕はゾクゾクした。 まるで何かを紛らわすかのように、一心不乱に僕を求める。 そうして喰い千切られるほどに求められ、僕も既に限界だった。
「中じょっ・・・僕っ、もっ・・
やっ・・・あっ、あうううぅっ。」
僕の注ぎ込んだ欲望が、彼の中に吸い込まれていく。 全て飲み込むかのような勢いで、強烈に締め付けられる。 欲望が空っぽになるまで、僕は彼に注ぎ続けた。
「ひゃうっ・・すっ・・・熱っうっつ、あうんっ。」
薄れていく意識の中で、彼の嬌声だけが響いていた。
ずっと、
ずっと、
ずっと、
「何の為・・・?」
僕の問いに、彼は怪訝な顔をした。 彼が僕と寝たり理由を、彼に聞いた返事がこれ。 本当に分からないような顔をして、尋ね返してきた。
「部下を奮い立たせる策略なのかな・・・って考えすぎですね。」
僕は、つい口に出してしまって、失礼だったかなと後悔した。 気分を害したかもしれないと、彼の顔をそっと覗き見る。
彼は、思案顔で俯いていた。 本当に分からないのか、これも全て芝居なのか。 疑ってしまうのが、僕の悪い癖だと思う。
「・・・・・どうしてだろうね。」
彼は、にっこりと笑って答えた。 本当に分からないのか、芝居なのか、何もヒントを与えない答え。 ズルイなぁ、と僕は内心で苦笑した。
彼の答えが出ないと、僕だって分からない。 彼に覚えておいて欲しいのか。 それとも、どっちだって良いのか。
彼の言葉に乗せられて命を捨てて良いのか。 それとも、彼の策略を疑うべきなのか。
彼が好きなのか。 それとも、嫌いなのか。
「君は?」
お得意の問い返しが来た。 そう言えば、ここも良く似ているかもしれない。 相手の出方を見て、自分の意思を決定する。 本当にズルイ人だ。
僕と同じくらい、彼はズルイ。 ズルくて、強かで、嘘つきで、嫌な人。 それも、僕と同じくらい。
皆は気がつかないんだろうけど、僕は分かるんだ。 彼がいかに汚い人間かって事が、良く分かる。
それでも、否、だからこそ、僕は貴方に乱されてばかりいる。
〔了〕
あとがき 久々に書いて、苦手づくしとか馬鹿企画。 シャルが苦手で、攻め視点が苦手で、カー受けが苦手。 でも、まぁ書けたから良しとする。 しかし、他人様の文章にケチつけてる場合じゃないぞ俺。 てか、この小説って一割でもエロなの?誰か教えて。 何か、エロに全く自信が持てない今日この頃。 いっその事、全部朝チュンにしてしまおうか。
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