親知らず子知らず
「参謀総長閣下。」
少し冗談じみた雰囲気を帯びた声が、後ろから掛かる。
その呼び掛けに、早足で歩く足を止め、男は立ち止まった。
やや長めのオールバックに揃えた髪を掻き揚げながら、無表情で振り返る。
「何だ?」
低く、ドスの効いた声。
鋭く厳しい目の奥で、青紫の瞳が暗く光っている。
カール=ヴァン=ドレークは、相変わらずの殺気に苦笑した。
男と彼とは、彼が天上王に拾われてから、もう16年の付き合い。
もう、大して口を利かなくても大体の意思疎通は出来る。
「どんな厭味を言いに来たんだ?」
男・・・天上軍参謀総長、トーマス=ウォーラは彼を睨んだ。
ドレークより22も年嵩のヴォーラには、彼の妙な薄ら笑いで全て通る。
見透かされて、ドレークは舌を出して笑う。
ミクトランの前と違って、ドレークの様子はまるで子供のよう。
それに呆れて、微かにウォーラの表情が緩んだ。
「昇進のお祝いですよ。」
満面の笑みでそういわれ、ウォーラは顔を顰める。
そんな覚えは無い。
そもそもウォーラの地位は天上のNo.2。上にいるのはミクトランただ一人。
「昇進、だと?」
「息子さん。」
変わらぬ笑みのドレーク。
一変して表情が強張るウォーラ。
「何の事だ?」
一瞬で無表情に戻し、知らぬ振りを決め込む。
その様子にドレークは、悪意の射した笑みで答えた。
ドレークとて、天上王の直属で子飼いの実力者。
天地の全ての情報は、彼に集まると言って良い。
「地上軍第06歩兵連隊ディムロス大佐、またお手柄だそうで。」
溜息一つ。
諦めたかのように、ウォーラは肩を竦めた。
そして億劫そうに口を開く。
「18年前に捨てた、俺のガキだ。」
「如何やら、戦う事になりそうですよ。彼、第一師団長ですから。」
結局、浮かない顔に落ち着くウォーラ。
それを覗き込むように、ドレークは見詰める。
琥珀色の瞳が心の奥まで見透かそうとしていた。
「やはり、嫌なものですか?」
「お前はミクトランと戦いたいか?」
「いいえ。」
少し距離を置き、静かにウォーラは言う。
それに静かに答えが返ってくる。
「でも、それは子供側の気持ちですから。」
「俺は、アイツを捨てた。」
言い捨てて、ウォーラはまた歩き出す。
自分の行いから、自分の過去から、逃げるように。
その背中を見詰め、ドレークは言葉を投げかけた。
「それは、親の勝手な考えですよ。」
静かな訴えに、ウォーラは立ち止まらない。
沈黙に低い靴音だけが響く。
再び、ドレークは口を開く。
「仕送り、されていたんでしょう?」
ぴたりと足が止まった。
そして、ゆっくりと振り返る。
「捨て切れない物ってのは、あるんだよ。」
青紫の瞳が、微かに寂しく光っていた。
琥珀色の瞳は、優しく柔らかく輝いていた。
天と地上の間には、今日も冷たい雪が降る。
あとがき
ディムパパとドレーク。
何かねぇ、親子っぽいですね。
二十五歳と、四十某歳の同僚ってなかなか。
そういやウォーラさんって、私の作品唯一のノンケですね。(汗)