あの頃は良かった、と言ってしまうのは年寄りの証明

リオンを倒した後くらいの話。
場所はダリル・シェイドとかにしとく。


「ちょっとディムロスと話しておきたいことがあるんだけど。」


私がそう言った時、ルーティーはニヤリとして「なになに?剣になってもいちゃつきたいの?」と的外れなことを口にした。私は残念ながら、彼みたいなちゃんとした男に惹かれるほど趣味が良くないのだ。


あまり深刻な話だと思われるのも困るから、適当に話を合わせて、ディムロスと二人−正確には二本?二振り?−にしてもらった。宿屋の床に転がされるのは余り面白くないが、この姿では仕方がない。彼女は剣にベッドを与えるほど寛容な性格ではないのだ。


しかし、誰かと二人で話すにも他人の手を借りなければならないというのは不便なものだ。改めて自分の姿を自覚すると共に、人と人が話すのに床に転がっている状況が奇妙だった。


「おかしなことになったもんね。」


この光景について述べたはずの言葉が、思った以上に現在の状況を言い当てていることに言ってから気付いた。傍らのディムロスが微苦笑を浮かべる。


「シャルティエが裏切り、イクティノスは目覚めず、我々は子供を戦わせている。おかしいなこと、この上ないな。」


私とディムロスは顔を見合わせて乾いた笑みを浮かべた。勿論、そんな気になっただけだが、あぁ、こういう擬人化表現を一々断るのは馬鹿馬鹿しいから次からは省こう。


ディムロスはそう現状をまとめたものの、裏切る者、戦えなくなる者が出て、10代後半や20代前半の若者が戦っているなどという状況は私達にとって初めてではない。それがまた、可笑しかった。終戦した時で考えてもシャルティエは17だったし、ベルセリオス兄弟は23だった。私達はもう少し年が行ってたけれど。


「相変わらずの戦争戦争ですかー。」
「戦争は嫌いか?」
「嫌いじゃないですけどね。」


つい、昔の口調に戻る。軍隊式にしては緩すぎる敬語。今思うと良くもまぁこれが許されていたものだ。いや、私なんかより言葉がひどいのは身近にいたけれど。


「何か物足りなくて。主にメンツが。」


私がそう言うと、彼は大きく溜息を吐いた。私の真意が良く分かったらしい。彼としても他人事でないだけに、むしろ呆れは大きいかもしれない。


「そういう話か。」
「まー、それでなくとも頭数は少ないし。」
「剣になっても部下の愚痴を聞く羽目になるとはな。」
「その為に貴方と二人にさせてもらったんですよ。」
「なるほど。」


あの頃、彼には1万人の部下がいたし、直接顔を見知っている者でも相当な数がいたはずだった。私も彼ほどじゃないけれど病院の同僚や部下、親しくなった将校、下士官兵。沢山の人に囲まれていた。昔と今との大きな違いだ。


「昔に比べると、随分少なくなっちゃいましたから。せめてハロルドでもいたら賑やかだったろうな、とか思ってしまうわけです。」


沢山の仲間の中でも、愛想が無くて身勝手な工兵中佐がいないのが私にとっては寂しい限りだった。いつも自分のことしか考えてないような奴だったけれど、大事な所で外すことはなかった。それだけに、どう考えても大事そうなタイミングでいないことへの違和感が大きい。


「気持ちは分からないではないな。」
「でしょ?」


私がこんなことを話しているのは、彼ならその気持ちが理解できるだろうと思ったからだ。マイペースで切れ者な参謀長がいないことで、彼もきっと心細い思いをしていることだろう。それも、第二次天地戦争を思わせるような現状があれば尚更のこと。


「ちょっと共感してもらうだけで気が軽くなったりするんですよ。」
「今となっては数少ない部下の力になれるなら光栄だが。」
「ま、お陰でルーティには貴方との仲疑われてますけどねー。」
「ハロルドのことは話していないのか?」
「全然。」
「どうして?」
「しっかり者のお姉さんぶりたいんですよ。」


どうも私は見栄っ張りだ。ルーティを見ていると自分と良く似ている所が目に付く。良く似ているから説教の一つもしたくなるし、ついつい人生の先輩ぶってしまう。昔はそんなことなかったのだけれど、これは年を取ったからだろうか。あー、いやだ。いやだ。


「男の趣味の悪さ馬鹿にされるのも嫌ですし。」
「それは、まぁ、違いないな。」


ディムロスが苦笑する。男の趣味ならルーティの方がずっとマトモだと思う。スタンには荒んだ生活をしてきたあの子をそっと包み込むような大らかさがある。多少鈍臭いのは大目に見ても良い。


「あとは、まぁ。ベルセリオスは向こう側ですから。」
「いや、でも、それは。」
「中身はどうあれ、元は。」
「・・・確かに。」
「私が攻撃緩みそうだったら叱って下さい。」
「君が仕事で手を抜くところは想像できないが。」
「褒めました?」
「褒めました。」


豪快キャラのようでいて、案外気遣いしいのこの人。若い子達の尻を叩いて、フォローして、たまに叱って、結構褒めて。その上、カーレル中将もイクティノス少将もノリス大佐もいない中で昔の仲間の世話まで焼かなきゃいけないんだから大変だ。


「リーダーって大変ですね。」
「何を今更。」
「スタンに話さないんですか?」
「何を?」
「カーレル中将のこと。」
「馬鹿言え。」


カーレル中将の話を振ると、彼は穏やかな雰囲気になる。この分かりやすさは美徳だ。この人のすぐ近くにいながら、この人のこういう面を知らずにいるのは勿体無いと思う。


「全部済んだら色々話しましょうよ、あの子達に。」
「色々?」
「中将が尻に敷かれてた話とか。」
「君がハロルドを口説いた話とか?」
「シャルティエが一言多かった話。」
「リトラー司令が親馬鹿だった話。」
「イクティノス少将がモテた話。」
「クレメンテ翁が若い頃の話。」
「口うるさい副官の話。」
「士官学校の頃の話。」
「開戦した時の話。」
「父の話。」
「軍医になった時の話。」
「初めて部隊を持った時の話。」
「初めて患者を手術した時の話。」
「世話になった上官の話。」
「助けてくれた部下の話。」
「ソーディアンになった時の話。」
「終戦の時の話。」
「・・・カーレルが死んだ時の話。」


私と彼と、同時にフフッと笑った。


「寂しくなりましたね。」
「ああ、本当に。」


何百、何千、何万いた仲間が、今は、もう。












































あとがき
剣と剣がしゃべる話を書こうと思って、やっぱアトワイトとディムロスがTODのメインだろって感じで。ルーティが思うほどしっかり者じゃないアトワイト。男の趣味が悪いのを知られたくないのと恥ずかしいのとで、ハロルドの話が出来ない。
最後の流れは手が勝手に動いた。自分ではそこそこ気に入っている。考えて出すってのも大事だけど、流れで出てくるってのが一番だと思うんですよね。後悔ポイントは、クレメンテの存在を無視しすぎてて、何か今はもう二人だけになっちゃいましたね、的な感じになってる点。てか、根本だなwwww