始まりは戦場から


高い金属音が、連続的に町へ響き渡る。
危機を知らせる警鐘だった。



「野盗だぁぁぁぁ。」



叫び声が突如、町中で起こる。
”野盗”そう呼ばれのは、町に雪崩れ込んできた武装集団。
煤汚れた軍服に、使い古した武器。
彼らの胸には、地上軍の階級章が光っていた。


戦乱の時代には珍しくない脱走軍人の一団。
腕っぷしが取り柄の彼らが、野盗に姿を変えるのは難しい話ではなかった。


逃げ惑う人々を、野盗は追う。


刃を翳し、剣を振るう。
耳に残る肉を裂く音
骨が砕ける鈍い音
彼方此方で聞こえる断末魔。


刃が煌く。
血が雪景色に散り、紅く地を染める。
火が放たれ、焔が平穏を焼き尽くす。


広がる地獄絵図。


また一人、断末魔をあげる。
さっきまで平穏な家庭だった一軒の家。
鮮やかな紫の瞳の男性が、家族を守るように倒れた。
その左胸には、錆付いた一振りの剣。



「二人とも、逃げなさいっ。」



事切れた男性の妻が、我が子を守ろうと野盗に立ちはだかる。
母の背を振り返らず、必死で駆ける兄妹。
劈くような叫び声、聞きなれた母の声。


幼い兄妹は固く目を瞑り、振り返るのを堪えた。
脳裏に広がる両親の姿が血に染まる。



「待ちやがれ!」



背後から聞こえる野太い声。
背筋がぞっとする刀剣の金属音。
恐怖で足が竦み、妹が転ぶ。
兄が駆け寄り、抱き起こす。
そのうちに、危険が二人に近づいて来る。



「兄妹そろって送ってやるよ。」




下卑な笑いとともに、目前に刃が振り上げられる。
恐怖に耐えられず妹が気を失い、兄も固く目を閉じた。


鋭く風を斬る音と共に、骨を断つ低い音。
鮮血が宙に飛び、兄妹の頬に触れる。



「ぐぎゃぁぁぁああ。」



汚い叫び声と同時に、野盗の腕が握り締めた剣ごと、どさっと落ちた。
鋭い二の太刀が、背後から野盗の胸を刺し貫く。


野盗は音も無く倒れ、二度と起き上がらなかった。



「悲しいものですね。」



剣の血を払いつつ、銀色の長髪を靡かせた青年が姿を現す。
真新しい士官の軍服に、輝く将官の階級章。



「地上に平和と自由をもたらすのが私達、地上軍の務めだと言うのに・・・。」



青年は冷たい視線を野盗の群れへと注ぐ。
野盗はゆっくりと青年を取り囲んだ。
それにも青年は全く動じない。



「おうおうお偉いさんじゃねぇか。」



「良い度胸だな、一人で来るたぁ。」



屈強な男達が、彼を取り囲む。
微動だにしないまま、大きな瞳だけで辺りを見回していた。



「無駄な殺しはしたくありません。」



静かだが圧迫感のある、低い声だった。
顔色一つ変えず、青年は淡々と続ける。


野盗達は、内心恐怖を感じながらも奮い立って剣を構えた。
優男一人に逃げ出したとあっては名折れ、とは野盗とて思う。
力自慢の腕に、おのおの力を込めた。



「無駄な心配だ。死人はお前一人だけ。」



いきり立った野盗が、刃を翳し青年に挑みかかる。
青年は、残念そうに剣を構えた。















「・・・貴様、何も・・・の・・・ぐっ・・ぐはっ。」



最後の一人が息を引き取る。
青年は数十名分の血が染み付いた剣を拭いながら、自らが築いた骸の山に背を向けた。



「地上軍第一師団長、メルクリウス=リトラー。死人が聞いても仕方が無い事だけれど。」



そう言いつつ、リトラーがふと助けた兄妹に目を向ける。
妹は気を失ってまだ目覚めない。
兄の方は、色を失いこちらを見ている。
リトラーは姿勢を下げ、兄の方へ目線を合わせた。
目の前の惨状がよほど恐ろしかったのだろう、全く反応しない。



「怪我は、ありませんか?」



リトラーが優しく声を掛け、少年の頭にポンと手を置く。
大きな紫色の瞳を見開き、少年は首を横に振った。



「父さんは、母さんは、皆は、何で・・・」



リトラーはかける言葉が無かった。
この町の生存者は、この幼い兄妹だけ。



「何で、何で・・・・。」



リトラーは泣き崩れる少年の問いに答えず、立ち上がった。
その問いに答えなど存在しないのだ。
戦乱を支配するのは、力と不条理だけ。
そして、町の外へと歩き出す。


この手の仕事はいつも後味が悪い。
敵は元々味方であるはずの地上人。
生存者は期待できず、居たとしても絶望の中でやがて死ぬ。
苦虫を噛み潰したように、リトラーは顔の返り血を拭う。
あの幼い兄妹に何もしてやれない自分が情けなかった。



「・・・って、待って。おじさん、待って。」



突然の呼びかけに、リトラーは思わず振り返る。
泣き崩れていた少年が、妹を背負い其処に立っていた。


先ほどの空ろな目とは違う、真っ直ぐな目。
そのアメジストの瞳に、リトラーが映っている。
強い意志が、そこからは感じられた。



「連れて行ってください。」



少年は一言そう言って、リトラーをじっと見つめた。
その目には絶望の色は無い。
決意と覚悟が鮮やかに映っていた。



「名前は?」



リトラーの問いに怪訝な顔をする少年。
少し照れくさそうにリトラーは続ける。



「私はリトラーと言う。君達の保護者になる者の名前だ、早く覚えてくれよ。」



言うだけ言って、リトラーがそっぽを向く。
その一言に、少年の顔が初めて綻んだ。



「・・・カーレル、カーレル=ベルセリオスです。」







・・・18年前のこの日、地上軍勝利への最初の歯車がゆっくりと、しかし確実に回りだした。



















  あとがき
ぐわぁぁぁ。
だめ、加筆修正だいぶ無駄。
どうにもならない。

加筆修正日 2005/11/20 /font>


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