・・・第三篇・・・


「寂しくないですか?」






剣の血を拭いながら、カーレル=ベルセリオスは尋ねた。
いつも通り、優しげな微笑が良く整った顔を覆っている。
アメジストの瞳が見る先には、ディムロスが血刀を提げて立っていた。






「何が?」






蒼い眼は殺気を帯び、いつもの温和な様子は感じられない。
スイッチの入った状態のディムロスは、射るような視線をカーレルに投げかけた。



動と静。
対照的な二人。






「私と二人で、寂しくは無いですか?」






ディムロスは剣を収め、足早に先へと歩く。
語る事無く、彼は答えるつもりの無い事を示した。
カーレルへと向けられた其の背にまで、返り血が飛び、紅く染まっていた。



まるで鬼神。



いつも、非戦闘時の柔和な姿しか見ない彼には、それは随分珍しく映る。
それを追いながら、またいつもの調子で話し掛ける。






「平気なんですか?」






「何がですか?」






振り返らず、彼は冷たく答えた。
雰囲気に苛立ちが滲み出て、カーレルを威圧する。
其れにも動じないカーレルは、微笑んだままその背を見詰めていた。






「案外、しっかりしているんですね。」






無視しても、突き放しても引き下がらないカーレルに、ディムロスは諦めた。
漸く振り返って、困りを含んだ表情を見せる。



彼の蒼い双眸には、カーレルのアメジストの瞳が、映っていた。
裏表を見せない、含みの多い瞳。
控えめに輝くその光は、妙に不気味に見える。






「私は、寂しいし不安です。」






弱気な台詞と対照的に、声の調子も雰囲気も全く清々しさに満ちている。
何処か悟ったような表情。
それはもう、怖いくらいの落ち着き。



落ちる間際の紅葉を思わせる、そんな様子だった。



急に儚げに見え出したカーレルを、ディムロスは不安げに見詰めている。
この瞬間に消えてしまうのではないかと思えた。






「・・・・・独りで、無駄死にするのはね。」






カーレルは微笑んだ。
研ぎ上げられた剣の、切先のような笑みで。



ディムロスは凍りついた。
自ら、三途の川に半分足を入れた彼に。
思わず、一歩後退った。






「彼を獲るのは、私ですよ。ディムロス。」






ゆっくりと目を閉じて、彼は元のように柔らかく微笑む。
いつも、いつも通りの掴み所の無い、雲のような笑みだった。



・・・・彼・・・・・
未だ会った事の無い、敵の大将ミクトラン。



天上王ミクトラン。



リトラーの育てた子と、彼の親友ミクトラン。
それがこれから殺し合う。
そして、どちらかは必ず死ぬ。






「悲しくないかな?」






ディムロスは呟くように尋ねた。
声には、落ち着きと第三者的な冷静さがある。



その問いに、カーレルは傾げた首で答えた。
何を、誰が、とそのアメジストの瞳が尋ねていた。






「・・・・・・・少なくとも、誰か。」






ディムロスは空を眺めた。
透明なカプセル越しの空。
彼の瞳と同じ、蒼い空が広がっていた。
20年振りに見る空は、この二人の目に眩しい。






「行きましょうか、そろそろ。」






カーレルは柔らかく言って、再び笑みを見せた。
頷くディムロスは、また血刀を提げて歩き出す。
それを追うカーレルは、やはり、そのままの笑みだった。






それは・・・・・散り際の楓のような、鮮烈な笑顔。













そしてまた、彼は歩き出す。
血の道標を記しつつ。
その足が止まるまで。



北風に、揺られて落ちる楓の下で。

















あとがき
カーレルさんは死にます。(笑)
それは決定事項です・・・・多分。
決定と言っても、飽くまで予定であって、予定は未定事項なのですが・・・・。


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