最近、授業中に視線を感じる。
教師が生徒に見られていなかったら問題だが、そういう意味でなく。
何と言うか、見つめられてる、ような。


「8行目のthatは関係代名詞ではありません。」


板書の為に生徒に背中を向ける。
大体の生徒は黒板を見るんだろうけれど、一つだけ背中。
最初は意識しすぎかと思ったのだけれど、そうでもないらしい。
気にしてるのがバレていないと良いのだけれど。


「これを文構造に注意して訳して下さい。では・・・。」



出席簿を見ると、つい彼の名に目が行く。
そういえば、彼の視線に気付いてから、当ててないな。
避けてるつもりはないのだけれど、何となく。
あんまり当てないのも意識してるようで具合が悪いな。
ちらりと見やると目が合って、彼はにっこり笑う。
止そう、何か癪になった。



「ティンバー。ディムロス=ティンバー。」
「はい。」



分かっていそうな顔をしていたディムロスを指名した。
その場で立って、訳文を読んでもらう。
この子は頭が固いけれど素直で真面目な良い生徒だと思う。
彼もこれくらい分かりやすかったら良いのに。
敢えて避けたことに彼は気付いただろうな。
今、どんな顔をしているか気にならなくもない。
ただ、きっとまた目が合うから。



「正解。thatは直前のideaと同格ですね。」



彼は出来てただろうな、テストの点も毎回良いし。
担任が言うには英語以外も平均して良く出来ているとのこと。
物静かでマイペースながら周りを気遣える、らしい。
文化祭とかは案外燃える方みたいに言われてたな。
・・・リトラー先生に聞きすぎかな、彼のこと。
あの人は人が良いから気付かないだろうけれど、怪しまれたら困る。



「thatは強調構文や関係副詞の場合もあります。注意するように。」



それに、悪気なく本人に言いそうだからな、あの人は。
たまに職員室で彼と話している所を見るし。
その時は大体ニコニコしてるんだ、彼。
私に向けるような意味深な笑顔ではなく、もっと、こう、良い感じの。
ああいう笑顔が私は好きなんだけれどな。
普通に懐いてくれたら良いのに。

時計を見ると授業終了のチャイムまで、あと数分。
予定のところまで進められたし、今日はこれで終わりにしよう。
このクラスの授業は他より疲れる。



「少し早いけれど、今日はここまで。」



教科書を畳んで教室から逃げ出した。
例の視線は教室を出るまで追ってきた。
そして、名残惜しそうに私を見送っていた。
私の勝手な意識だけれど、あながち間違いでもない気がする。



ああ、参ったな。
今日も彼のことばかり考えてしまった。

























あとがき
英語教師はイクティノス。
あんた変態っぽいよっ。(笑)
例の彼はカー君です。
担任のリトラー先生の前では猫被り。
カー君的には、イクティがモヤモヤして自分避けるのは楽しい。
でも、ディムロス可愛がるのにはムカムカしてるんだ、きっと。
複雑だなぁ、若者は。(笑)
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