「一年ぶり、ですね。」
彼が笑った。 私は、彼の安らかな笑みで私も思わず笑みが零れる。
彼の言葉で、私はふと気が付いた。 もう一年も経つ。 忙しさに、時の移ろうのも忘れていた。
「暫定政府軍長官、でしたっけ?。」
今の私の、重い肩書きだ。 それを言われると、何だか彼と離れたような気がする。 少し、それが寂しい。
「くすぐったいな、その肩書きは。」
苦笑すると、可笑しかったのか彼も笑う。 其の笑みからは、血生臭いものが感じられない。 軍人だったとは、とても思えない。
「立派じゃないですか。」
「立派?」
呟くように彼が言うから、私は聞き返した。 嬉しそうに、彼は頷く。
「新しい世界を作るところまで、ちゃんとやってる。」
彼は笑っていたが、私の表情は曇った。 前線で戦う私達の背を、彼はもう押してはくれない。
「こら、そんな顔はしない。」
私の顔を見て、彼が困ったように笑った。 昔は、疲れ顔の彼に注意するのは私だった。 いつの間にか、立場が逆だ。
「すまない。」
「こら、謝らない。」
また、笑顔で彼に注意された。 いけないな、こんなんじゃあ。
「笑って。」
覗き込むようにして、彼が言う。 どうにか、笑顔を作った。
半分笑って、彼が眉を顰める。 お気に召さなかったらしくて、少し困った。 でも、彼の表情が可笑しくて逆に笑えた。
「それで良い。」
嬉しそうに彼がまた頷いた。 彼が嬉しいと、私も嬉しい。
「今日は、忙しくないの?」
彼が私の腕の時計を見た。 私も、時計を見た。
夜の八時五分。 まだ、予定の時間には余裕だ。
「今日中に帰って来い、と言われた。」
「彼は、知ってるの?」
ああ、と私は頷いた。 彼が溜息を吐いて頭を掻く。
「敵わないな。」
その言葉の真意が、私には分からなかった。 分からないが、彼が少し哀しげに見えた。
「私には無理だな。」
彼が参った、といった様子で呟いた。 そして、また笑顔に戻った。 やはり笑っていてくれたほうが良い。
「早く、忘れた方が良いよ。」
彼が言って、私に背を向けた。 突き放されたような一言に、どうして良いか分からなかった。
「君には、今と未来がある。」
現実を、残酷に突きつけられた。 歩み寄ろうとしたら、彼が一歩離れた。 永遠に近づかない、この距離。
「私は、遠くで君の幸せを祈りたいんだ。」
首から上だけ、彼が振り向いた。 笑っているのか泣いているのか、私には分からなかった。
目を離せなかった。 目を離したら 、彼が離れていきそうで。
「私は・・・。」
「ありがとう。でも、十分だ。」
彼が私の言葉を遮った。 私は、もう一歩歩み寄る。 彼がまた離れた。
「君は、人類のこれからを守る人じゃないの?」
守る人、でも私は目の前の彼一人守れなかった。 それがこの一年私を苦しめてきた。
「ちゃんと、本当の私を見てください。幻じゃなくて。」
彼が向き直って、私を見詰めた。 視界が何故だか分からないけれど滲んでいた。 彼をちゃんと見ていたいのに、放したくないのに。
「ディムロス。」
彼が呼んだ。 しっかりとした、彼の声だった。
「暫定政府軍長官 ディムロス=ティンバー大将。」
今の私はもう、地上軍のディムロスじゃない。 地上軍なのは、もう目の前の彼だけ。
俯いていた顔を、しっかりと上げた。 彼と目がある。
「お待ちしております。ごゆっくりお越し下さい。」
彼が笑顔で私に敬礼した。 軍の中で生きた十八年間、彼に染み付いた敬礼。
私も、敬礼で返した。 頬を何かが伝うのを感じた。
私は目を閉じた。
一面の花畑。
彼の髪と眼の色に似た、ラベンダーが咲き乱れている。
其の中心に、小さな石が一つ。 天地戦争の英雄の墓とは、思えないほどの小さな墓石。
私は、石に寄り掛かるように其処にいた。 空には満天の星空が広がって、私を見下ろしている。
「ありがとう。」
それだけ呟いて、私は墓石に背を向けた。 吹く風に、ラベンダーがさわさわと揺れる。
来年は、ちゃんと墓参りに来よう。
あとがき
半端だ。 だから、ディムカーは・・・って、書くって言ったもんなぁ。 せめて、ディム受け計画前に書けば良かったんだ。 あー、失敗した。 ごめんなさい。
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