その後の話

「お兄ちゃん、起きて。」


あの事件から一年。昨日は久々に皆が集まって、馬鹿騒ぎをして、ディムロスたちやリオンのことを思い出してちょっとしんみりして、それぞれが復興のために頑張っている話を聞いて元気を出して、何だか充実した一日だった。お陰で、とても良く眠れた。


「お兄ちゃん!」


こうしてゆっくりと眠れるのも、平和を取り戻せたからで、そのために犠牲になった沢山の人がいて、だから、その人たちの分まで俺達が頑張らなきゃ。


「起きなさい!!!」


天上都市から落ちたみたいな衝撃。目を開けると、仁王立ちする妹。え、何?何かあったの?


「起きた?」
「ふぇ?」


どうやら、朝らしい。ベッドで寝ていたはずなのに、なんか冷たい。あれ?床?あと頭が痛い。何でだろ。そういえばまだ起き上がってないのに動いてる気がする。引き摺られてる?


「はいはい、お兄ちゃん、そろそろ起きようねー。」
「んん・・・。」
「ルーティさん待ってるよ。」
「は?」


何か聞き慣れた単語を聞いたような。引き摺られてきた居間には、何か見覚えある顔がいるような。俺を呆れ顔で見ているような。


「ごめんなさい。お兄ちゃんまだ目が覚めないみたいで。」
「あー、大丈夫大丈夫。いつもだし。」


聞き慣れた声を聞いて、ついに完全に目が覚めた。あ、いつにも間にか食卓についてる。寝てたのに・・・。いや、それより大事なのは。


「え、ルーティ?」
「あ、起きた。」


昨日ノイシュタットで解散して、フィリアと一緒にセインガルド行きの船に乗るって言ってたんだけど・・・。


「何でうちで朝ごはん食べてるんだよ?」
「朝食べないと一日元気に働けないじゃない。」
「いや、そうじゃなくて。」


ルーティーが健康そうな白い歯を見せてパンを齧る。朝からこんなにテンションを上げられるのは羨ましい。


「リリス、何でこいつがうちにいるんだよ。」
「昨日、お兄ちゃん帰ってきてすぐ寝ちゃったでしょ?」
「え?うん。」
「その後、ちょっと遅くにルーティさん来たのよ。」


何故平然とうちにやってくるんだ。あと、知らないうちにリリスと随分仲良くなってるし、知らないうちに泊まってるし。


「帰ったんじゃなかったのか?」
「ちょっとノイシュタットに用事があったのを思い出したの。」
「ここ、リーネだぞ。」
「いや、それは、その・・・。」
「あ、うちに泊まればタダだとか思ったんだろ!」


言い淀んでいたルーティが二度、三度瞬きをする。こいつ睫毛長くて瞬きするとバシバシ鳴りそうだな、と思っていたら、何だか急にうんうん頷き始めた。


「そ、そうそう。ノイシュタットの宿って高いし・・・。」
「田舎は嫌いなんじゃなかったのかよ。」
「住んでみると悪いトコじゃないわね。」


相変わらずケチなところは変わっていない。まぁ、節約した分がどこに行くのか分かってるから良いんだけど。一人増えたぐらいじゃ家計も大差ないだろうし、多分。


「・・・お兄ちゃん。」
「ん?」
「ううん、なんでもない。ご飯。」
「あ、ありがとう。」


何か微妙な表情のリリス。何だろ。俺、何か変なこと言ったかな。ルーティ来てるのに寝癖ついてまま出てきたからかな。いや、でも、引っ張ってきたのリリスだし。あ、溜息吐いてる。


「お兄ちゃん。」
「はい。」
「ご飯食べたらノイシュタットに買出しね。」
「え、でも、この前行ったばかりだし・・・。」
「買うものがあるの。」
「あ・・・はい。」


何か今日のリリスは機嫌が悪い。黙って従っておこう。あと、無駄なものは買わないようにしないと。肉って言われてビーストミートを買ってきた時はすごく怒られたし。結構美味しかったんだけど。


「すみません。ルーティさん一緒に行って貰えますか?」
「いいわよー。一宿一飯のってやつだし。」
「すぐ変なもの買うんで見張っておいてください。」


本当にいつの間にか仲良くなってるな。昨日夜なんか話したりしたのかな。リリスもルーティもおしゃべりだからなぁ。


「お兄ちゃん、マンボウ買ってきたんですよ、マンボウ。」
「うわー、信じらんない。」
「あんなの食べられる訳ないじゃないですか。」
「そういえば一緒に旅してた時にもそんなことあったかも。」
「あ、聞きたいです、それ。」


あぁ、何か俺の悪口で盛り上がってるし・・・。








リリスもルーティも俺の悪口なら無限に出てくるみたいで、俺はちょっと朝からげんなりした気持ちで家を出た。皆がいる時ならルーティが何か言った時にフィリアとかがフォローしてくれるたんだけど、今日は二倍だし誰も止めないし。


「あはは。あんたってホント・・・。」


ルーティは良く分かんないけどずっと笑ってるし。何か、こんなに機嫌良いの見たことないくらい機嫌が良い。女って分からないな。


「マンボウは美味しそうに見えたんだよ。」
「へー。へー。」


ノイシュタットは一年経って復興が進んでいて、かつての活気を徐々に取り戻しつつあった。海からの風に桜の花びらが舞う。ルーティやリオンと一緒にノイシュタットに来た時も、そういえば今と同じ桜の季節だった。あの時はイレーヌさんに街を案内してもらったんだったな。


「どうしたの?ボーっとして。」
「そういえばイレーヌさんに案内して貰ったなぁって。」
「・・・・そーだったわね。」


あれ?何かさっきまで機嫌良かったのに、急に。あれ?俺なんかまずいこと言った?何か今日は自覚がない失言が多いな。俺、ルーティーに何言うと怒るか大体分かってるはずなのに。


「あーあ、休憩休憩。どっこいしょー。」


急にやる気を失ったのか、公園のベンチにどっかり腰を下ろすルーティ。いや、買ったもの運んでるの俺だし、別に何もしてないだろ、と思いつつも素直に従う。俺だって何も学ばない訳じゃない。


「普通にしてたら可愛いんだからどっこいしょーとか言うなよ。」


あ、気をつけてたはずなのに失言。しまった。反撃がくる。「何ようるさいわね。あたしがどう座ろうと勝手でしょ」とか言い返してくる。


はずだったんだけど、何だか今日は反応が違って、また二度三度と瞬きをして、それから視線を俺から外して、ちょっと膨れてみせた。怒ってはいるみたいだけど、怒り方が違う?


「どーせ、おしとやかさの欠片もないわよー。」


俺がどうして良いか分からずに立ち尽くしていると、ルーティーは遠慮がちに俺の方を二三度見て、ベンチの隣をぽんぽんと叩いた。相変わらず膨れたままだけど。


ルーティの態度がいつもと違うからか、隣に座るのが急に照れ臭くなって、ちょっとどうして良いのか分からなくなって、俺は曖昧な笑みを浮かべた。視界に、アイスキャンディーの屋台が映る。


「あ、俺、ちょっとアイスキャンディー買ってくるよ。」


自分で聞いても上ずっているのが分かる声が恥ずかしかったけれど、取り敢えずその場を離れる口実があったことに安堵して、屋台に急いだ。そういえばイレーヌさんに案内して貰った時も食べたな、これ。さっき怒らせてしまったから口に出さない方が良いだろうけど。


「お待たせ。はい。」


戻るとまだルーティは膨れていた。今のルーティは何を考えているのか、何に怒っているのか分からないから扱いに困る。取り敢えず、さっき指示された通り、少し照れ臭い気持ちを隠しながら隣に座る。意外と距離が近くて焦った。今まで一緒にいて、こんな気分になったことなかったのに。


「あのさ、何か、怒ってる?」
「怒ってないわよ。」
「怒ってないなら、機嫌直してくれたら嬉しいな、なんて・・・。」


返事がない。美味しそうでもまずそうでもなく、黙々とアイスキャンディーを舐めるルーティ。一言かけるだけで何でこんなに色々考えてしまうんだろう。前はもっと何も考えずに接してたのに。すぐ喧嘩して、喧嘩の理由もすぐ忘れて、気付いたらどうでも良くなって。


「機嫌も悪くないわよ。」
「だったら普通に・・・。」
「あんたこそ・・・普通じゃない。」
「いや、俺は。」
「普通?」
「・・・・じゃない。」


普段の俺はアイスキャンディー買ってきたりしないな。でも、そもそもそんな空気にしたのはルーティだし。いや、ルーティにそんな態度を取らせたのは俺なのかもしれないけど。


周りを見回すと、カップルばかりだった。俺達と同じくらいの歳の男と女とが一緒に座って、幸せそうにしている。そういえば、イレーヌさん、街を案内してくれた時にデートだって言ってたな。勿論、それは冗談だったけれど、これは、やっぱり、デートっぽく見えるのかな。


「お、おかしいよな、俺達。」
「そうね。ホントに。」
「あれかな?デートみたいなことしてるせいかな。」
「あ・・・、やっぱり、そう、なんだ。」
「え?」
「デート・・・なんだ。」
「え、今なんて?」
「ううん。何でもない。何でも。」


そういえば、ルーティと二人で出かけるなんて初めてだった。仮に二人でいたとしても、一緒に旅してる時ならアトワイトとディムロスがいた訳で、本当に二人きりってこれが初めてじゃないだろうか。


「何かおかしいな、やっぱり。」
「そう、ね。・・・嫌?」
「あ、そんなことは、ない、けど。」
「なら・・・良いじゃない。」
「う、うん。」


帰り道、殆んど会話はなかったけれどおかしな空気に慣れたのか嫌な気持ちはしなかった。ただ、ルーティの顔を見るのが無性に照れ臭くて、でも見たいような気もして。自分で言った冗談だったのに、本当に静かにしてるルーティが可愛く見えるような気もして、とにかく色々もやもやした気持ちで帰ってきた。


「お帰りなさい。」
「あ、ただいま。」
「ただいま!そうそう、ちょっと聞いてよ。」


ルーティは家に帰ると普段の様子に戻って、俺をネタにリリスと盛り上がり始めた。二人きりだった時のしおらしさが嘘みたいな態度で、その切り替えの速さに面食らってしまった。


「あたしと一緒だって言うのに、スタンったら他の女の話始めて。」
「えー、お兄ちゃん、ひどーいっ!」
「こんな美人と一緒にいるのに、ホント朴念仁は困るわー。」


言われようにひどいと思う反面、ルーティが普段の様子になって安心したような、釈然としないような。


そういえばルーティは今日も泊まっていくらしい。さも当然のように一緒に夕飯を食べて、うちの風呂を使って、さっさと部屋に入ってしまった。何なんだ。


次の日は羊の世話、その次の日は里山の手入れと薪割り、その次の日は畑仕事があって、ノイシュタットに用事があるはずのルーティは一人でどこかに行く素振りもなく、俺と一緒に村の仕事をしていた。


「あ、えーっと、おーい、スタンのトコの嫁さん。」
「あー、はいはい。」


今、否定しなかったぞ、あいつ。








一週間経って、ルーティが村にすっかり馴染んで、俺はすっかり「全く隅に置けないな」みたいになって。それでも、二人きりになると相変わらずギクシャクというか、もやもやというか、変な感じになってしまう。


今日は爺ちゃんがノイシュタットの医者に診察を受ける日で、リリスは付き添いで出かけて、家にはルーティと俺の二人きり。前の晩から落ち着かなくて、朝も早く起きてしまった。俺らしくない。


「仲良くするんだよ」とリリスは言い残して、朝ごはんの支度だけしてから出ていった。俺は「仲良くしてるよ」と答えたけど、そしたら「もっと仲良くしなさい」ってさ。意味が分からない。もっと仲良くってこれ以上どうしろって言うんだろ。


ルーティが起きてこない。いつも早起きは三ガルドの得って言いながら早起きしてるのに。いや、俺は大体寝てるからそれを直接見た訳じゃないけど。
・・・起こしにいっても良いもんかな。


「ルーティ、入るぞ。」


ノックして返事がなくて、一応声を掛けてから入る。部屋は少しだけルーティの匂いがする気がして、胸が鳴った。いや、朝起こすだけで何でドキドキするんだよ。おかしいだろ。


ルーティは幸せそうに眠っていた。眠っている顔なら、遠慮なく見詰められて、あぁ、やっぱり可愛いなと思った。別に眠ってなくても、黙ってなくても、喋ってても、怒ってても、憎まれ口叩いてても。


あぁ、だめだ。また変な気分になる。取り敢えず起こそう。それから仕事に出て、誰か他の人のいるところに行けば・・・。


「ルーティ起きろ。」


遠慮がちに、布団越しに肩に触れて軽く揺する。薄い布団の向こうに柔らかい感触があって、あぁ、やっぱり女の子なんだなと思って、また胸が鳴った。


「んっ・・・。」
「ルーティ。」


寝返りを打って、肩に乗っていた布団を跳ね除けて、ルーティはまたすやすやと寝息を立てる。仕方なく、直接、肩に触れる。柔らかく温かい。触った手先から鼓動が伝わらないかと心配になるくらい拍動がうるさかった。


ルーティーは眠ったまま、肩に乗っている手に自分の手を重ねる。小さな、繊細な手だった。手を離すに離せなくなり、困る。こちらの困惑を知らず、ルーティはますます幸せそうに笑みを浮かべ、指を絡めてくる。


「ルーティ、ちょっと、そろそろ。」
「んっ・・・スタン・・んー。」
「え?」
「んー、スタンん・・ふふっ、ひひっ。」
「ルーティ?」
「スタン・・・スタン・・・ふぇ・・スタン!?」


最後のは目覚めて、俺の顔を見て、手を見て、それから口にした驚きから出た一言。見る見 る顔が赤くなるのが分かって、こっちまで顔が熱くなった。


「ど、どういうこと?」
「お前が寝てて、それで、起こしにきた。」
「あぁ、そっか、ちょっと今、夢と現実がごっちゃになって。」


手を振り解くことも怒ることもしないまま、ルーティは困惑と羞恥で一杯一杯といった様子で視線を忙しく泳がせている。


「何か、変なこと言ってなかった?」
「は?」
「寝言で変なこと言ってなかった?」
「いや、別に。どんな夢だったんだよ。」
「言えない。絶対無理。」
「えっと・・・。」
「絶対言えない。墓の中まで持っていくわ、これ。」
「あのー。」
「何よ!今大変なの!」
「名前呼んでたけど・・・俺、出てきた?」
「・・・!!!」


声にならない声で驚きを表現したあと、一瞬逡巡し、それからルーティは繋いだままだった右手を引っ張り、俺をベッドの上に押し倒した。え、ちょっと待って、これどういうこと?


「開き直った!」
「へ?」
「ここ一週間ダメダメだったけど、あたしもう開き直ったから。」
「え、何?」
「少し黙る。」


ルーティの顔が寄ってきて、頭突きじゃなくて、唇と唇が・・・。これって、その、キス?いや、間違いなくキスだけど。


「あんた鈍感だからこれぐらいしないと分かんないでしょ?」
「え、これ。」
「まだ伝わんない?」
「伝わり、ました。」


伝わったけど、整理し切れない。だって、つまり、これって。


「そうです、そうです。あんたに用があったから戻ってきました。悪い?」
「いえ、そんなことは・・・。」
「どーせあんたと二人で出かけるぐらいでニヤニヤしてたわよ!」
「あ、そうなん、ですか。」
「二人でアイスキャンディー食べて、デートっぽいなと思いましたよ!」
「ルーティ、落ち着いて。」
「うるさい!スタンの嫁さんって呼ばれて嬉しくなりました。文句ある?」
「ない、です・・・。」
「二人きりって聞いたから昨日眠れなかったわよ!ごめんね!」
「それ、謝る口調じゃない。」


ルーティはここ数日なかったような厳しい視線と口調を俺に浴びせる。でも、言ってる内容は全然中身とバランス取れてないけど。何かびっくりしすぎて逆に冷静になったというか、他人事みたいになったというか、ぼんやり見上げてたら、良く分からないけどまたルーティが赤くなった。


「あんた、気付いてなかったでしょ?」
「はい、すみません。」
「鈍感な男ってサイテー。」
「ごめんなさい。」
「反省しなさい。」
「反省します。」
「もっと反省しなさい。」
「もっと反省します。」
「じゃあ、脱ぎなさい。」
「はい?」


俺はびっくりしすぎて冷静になったけれど、ルーティは恥ずかしすぎて羞恥がなくなったのか、何とも豪快に上半身を露にした。


「何?あたしじゃ不満だって言うの?」
「いや、それ以前に。」
「普通にしてたら可愛いんでしょ。普通にしててあげるわよ。」
「そもそも普通は突然脱げとか言わないような・・・。」
「ぐちゃぐちゃ言わない。やるの?やらないの?」
「ええっ、と。」
「時間切れ。やる。」


俺が混乱してるのを良いことに、服を脱がせ始めるルーティ。しかし器用なはずの手先なのに、なかなか作業は進まない。表情からも焦ってるのが分かった。


「ちょっと、落ち着けよ。」
「こういうのは勢いが大事なの。」
「ボタン全然外れてないぞ。」
「うるさいわね!」
「ちょっとストップ。」


ルーティの細い両手首を掴む。胸に行きそうな視線を戒めて、焦りの色が浮かぶルーティの顔を見詰めた。


「俺の話を聞け。」
「嫌。」
「勝手な奴だな、ホント。」
「悪かったわね。さっさと放しなさい。」
「分かった。さっさと話す。」


ルーティの言葉を無視して、言葉を続けようとするものの、やはりいざとなると照れ臭く、ルーティの言う通り勢いが大事なのを実感する。取り敢えず、勢いをつけるべく、ちょっと強引にキスをして、抱き締めた。


「好きだ。」
「・・・。」
「なかなか言えなくて悪かった。ずっと好きだった。」
「・・・。」
「お前は怒ってても笑ってても可愛い。いつも可愛い。」


ついさっき思ったことを付け加えて、もう一度抱き締める。こんな大胆なことが言えると思わなかった。抱き締めたルーティの身体は本当に細くて、あんなに逞しい人間だと思っていたのに何てか弱いんだろうと思わされた。


俺の言葉を聞いたルーティは全身の力が抜けて、ぼんやりしていた。多分、今のタイミングで今の発言と行動を取るのは合ってたと思うんだけど、何か反応が変で、俺はまた外したんじゃないかと心配になった。


表情が見たいなと思って、いったん身体を離そうとするのだけれど、しっかりとルーティの腕が首に回っていて離れない。


「あの、ルーティ?」
「今顔見たら殺す。」
「へ?」
「眠ってるところを簀巻きにして沈めてやるから!」


内容は怖いのに、語気は全然怖くなかった。そのまま抱き合って、1分2分と経った頃ルーティはやっと口を開いた。


「スタンの、当たってる。」
「仕方ないだろ、だってお前、胸当たってるし。」
「今更しないとか言わないでしょうね?」
「心の準備が・・・」
「すぐ準備しなさい!」
「はいっ!」
「あたしをベッドの上でここまでコケにする男は初めてよ!」
「そう、なの?」
「言ってみただけ。そもそも初めてだし。」


初めてにしては随分豪快で積極的だったけれど。でも、それが緊張の裏返しなんだと思えばそれはそれで納得出来る。何だか無理をさせてしまって悪かったなという気持ちにもなる。


ルーティをなるべく優しく横にして、自分の上を脱ぐ。あんなに積極的だったクセに、いざとなるとルーティは身を固くしてなすがままになっていた。


「急にその気になるのね、あんた。」
「初めてなんだろ?」
「ええ、まぁ。」
「だったら俺がリードした方が。」
「・・・え、ちょっと待って。どういうこと?」
「え?」
「え?じゃないわよ、あんた、経験あるの?」


あ、まずい、これは失言だったのかもしれない。


「はぁ?誰とよ?いつよ?何で黙ってたのよ!」
「え、だって話すようなことじゃ・・・。」
「相手は?誰?誰と?フィリア?イレーヌ?リオン?マリー?まさかリリスじゃないでしょうね?」


リリスが選択肢に入ってるのもあれだけど、リオンが入ってるのも問題だと思う。チェルシーは流石に除外されるのか。まぁ、当然だけど・・・。


「皆と出会う前の話だから。」
「へー。」
「聞きたい?」
「別にー。」
「昔の、昔の話だから。」
「聞くけどさ。」
「はい。」
「何回したの?」
「え、その、2、3回?」
「ふーん、遊ばれちゃったわけだ。」
「・・・まぁ。」


ルーティは機嫌悪そうに舌打ちをしながら下も脱ぎ始める。あ、別に中止する訳ではないのか。そのムードのままするのもどうかと思うけど。


「今日中に三回はするから。」
「は?」
「あたしが嫉妬してると思ってニヤニヤしてんじゃないわよ。」
「いや、これは・・・って嫉妬?」
「悪い?」
「悪くないです。」


変な感じになってしまった。まぁ、お互いあんまり甘いムードとかだと調子狂いそうだけど。でも、何か、小銭落としたお詫びとして肩揉みさせられる、みたいな感じでこういうことするのも。


とは思いつつも、早くしろというルーティの厳しい目に負けて、取り敢えずキスから仕切り直す。この人と両思いのはずなのに、どうして裸で睨まれたりしなければならないのだろう。


「あたしはキスも初めてだったんだけど。」
「・・・ごめんなさい。」


少し黙っていてもらおうと思って、長いキスをする。意外なほど口の中が熱くて、何と言うか、まぁ、つまり興奮、した。


「ぷはっ。吸い過ぎ。苦しっ。」
「あぁ、ごめん。その・・・。」
「あー、がっついちゃってる?」
「悪かったな。」


短いキスをしながら、全身を撫で回す。生傷が絶えない生活をしているはずなのに、ルーティの肌はどこもすべすべで綺麗だった。触れるたびに驚いたように震える反応も、荒い息も愛しく思える。


「肌、綺麗だな。」
「だっ、黙って触りなさい。」
「それに柔らかいし。」
「うるさい!恥ずかしいでしょ!」


キスで口を塞がれる。多分、キスの回数はトップに立ったと思う。いや、言わなくて良いことだから言わないけど。そういえば「黙って触れ」なんだな「触るな」じゃないだな。


「あー、もう無理。やだ。やめて。」


首筋からキスをしていくと、くすぐったいのか恥ずかしいのかルーティが暴れだす。胸まで降りてきた時には髪の毛を引っ張られた。長いとこういう時に大変だな。いや、滅多にないけど、多分。


「やめる?」
「やめない!」


実際、今やめろと言われても困るのだけれど。初めての時より緊張してるし、興奮してるし。そもそも相手がルーティっていうのが凄すぎる状況だし。あ、これは勿論、良い意味で。


「あんたのも触らせなさいよ。」


やられっぱなしの状況を打開したかったのか、ルーティが俺のズボンを引っ張りながら言う。ただ、山賊を返り討ちにして「金出しなさい」と脅す時と同じ調子で言われても。大事に扱って貰えないと困るんだけれど。


「熱くて、固い、のね。」
「あんまジロジロ見られると困るんだけど。」
「良いじゃない。減るもんじゃなし。」


ルーティの手は少し冷たくて、それがたどたどしく触れてくるのが新鮮だった。ただ、こっちの反応を見ながら楽しそうにしている様子はちょっと気に食わない。


「あっ、えっ、どこ触って!」
「え、どこってルーティの・・・。」
「言わなくて良い!馬鹿!」


ほんの申し訳程度に生えている下の毛を撫でて、割れ目を指で撫でる。すでにそこはかなり濡れていて、指先に雫がついた。決定的な場所を触られていることを感じて、ルーティは身を固くする。同時に濡れていることに気付かれたのが恥ずかしいのか全身を真っ赤にしていた。


「あー、もう無理。」
「え?」
「痛くて良いからちゃちゃっと済ませて。」
「ちゃちゃっと済ませられることじゃないだろ。」
「あたし、このままだと恥ずかしくて死ぬ。」


ルーティの羞恥心は分かるし、こっちとしても勿論早く繋がりたい気持ちはあるけれど、でもなるべく痛くないようにしたい。そうなると、恥ずかしいのは我慢してもらわなければならない。恥ずかしくて死んだ人はいないし、多分。


「あ、だから、やめなさいっ!」
「ごめん。ちょっと我慢。」


一言だけ謝って、それからルーティの入り口をほぐし始める。初めての人とするのは初めてだったから、どうしたものか難しいけれど、取り敢えず最初は入り口の周りだけ。それから徐々に指を中に入れていって広げていく。


多分20分か30分くらいはそうしていたと思う。シーツのシミがちょっと深刻になっていたから後で洗おうと思う。バレたらリリスに謝ろう。途中まで言葉の限り罵っていた口は、いつの間にか荒い息と喘ぎを漏らすだけになっていて、緊張で固くしていた身体はすっかり脱力していた。


「はぁっ・・・もう、サイテー。」
「ごめん。」


必死に声を抑えようとしていたけれど、ルーティは2、3回はイッたと思う。その度にちょっと理性をなくしそうになったけれど、今回痛くしたら多分一生言われると思うから我慢。我慢。


「あんた、しつこすぎ。」
「だって、雑にやったら一生ケダモノ呼ばわりするだろ?」
「いっ、一生!?・・・いっしょう・・・。」
「ルーティ?どうした?」
「・・・一生、ね。」


ルーティは大きな溜息を吐いて、だらりとした腕を首に絡めて俺を引き寄せる。表情には何故か分からないけれど諦めの色が浮かぶ。


「あー、あんたには敵わない。もう好きにして。」
「へ?」
「あと、また、イクから・・・あっ、口っ。」


ルーティはキスで口を塞がせると、細い腕のどこにそんな力があるのか分からないほど強く、俺を抱き締めた。中に入れていた指がぐっと締め付けられる。


もう、十分なように思えた。十分でなくても、ちょっとこのお預け状態は限界だったので、痛かったら我慢してもらおうと思った。痛いぐらい膨らんだそれを、ルーティの入り口にあてがう。あ、絶対今やらしい顔してるな、俺。


「入って良い?」
「好きにしろって言ったでしょ。」


軽くキスをして、ゆっくりと、入る。あれだけほぐしても圧迫感があるのか、ルーティは苦しげに歯を食いしばっていた。首に回された腕にも力が込められている。


「痛い?」
「少し、だけ。案外平気。」
「あと半分。」
「あんた、デカす・・・ぎ。」


最後は少し強引に押し込んだ。ルーティは声にならない声を上げて、力なく俺の頭を叩いたけれど、表情は妙に幸せそうだった。何かにやけてるし。


「動く?」
「良いのかよ。」
「あんたのイク顔見たいし。」
「お前なぁ・・・。」
「ほらほら、あたしの身体に溺れなさいよ。」


その憎まれ口を後悔するなよ、と思いながら、ゆっくりと出入りを始める。絶対苦しいはずなのに、絶対痛いはずなのに、何故かルーティは嬉しそうに笑っている。


「あうっ、つっ、どう?良いの?」
「見れば分かるだろ!」
「必死で、あっ、腰、振っ、ちゃって。」


いつの間にか手加減は全然出来なくなっていて、夢中で動いた。散々我慢したからか、限界は近くて、それが表情に出てたのかルーティはますます上機嫌だった。


「出す、の?ほらっ、出しなさいよ。」
「んっ、うっ・・・お前、足。」
「良いからっ。そのまま、出して、良いって、言ってあげてるんだから。」
「あ、ううっ。」


俺には俺なりの考えがあって、出す前に抜こうとしたのだけれど、いつの間にかルーティの足がしっかり俺の腰を捕まえていて、何と言うか、つまり、中に出してしまった訳で。


「熱っ。うわっ・・・すごい・・・。」
「お前・・・中・・・。」


お互い、息切れがひどくて単語しか出なかった。俺の話を聞く様子もなく、上機嫌なままルーティはキスをねだる。


「だって、もったいないじゃない。」
「は?」
「もったいないでしょ?」


ケチの考えることは分からない。子供が出来たらどうするつもりなんだろう。いや、俺は、嬉しいけれど。・・・そうか、そうだよな。別に、困らないし、嬉しいし。もったないって気持ちは、良く分からないけれど。そうか、子供か・・・。


「名前、考えとくから。」
「名前?」
「子供の。」
「・・・・馬鹿っ!」


今日何回目か分からない謎の赤面の後、グーで殴られて俺とルーティの第一回は終わった。 ちなみにこの後「三回する」の宣言通り、ルーティはもう二回勝ち誇った顔で俺のを搾り取って、疲れ切ったのかすぐに眠りに落ちた。この体力がどこから来ているのか俺は全く分からない。俺も何か疲れて、眠くて・・・。








「お兄ちゃん!お姉ちゃん!起きなさーい!!!」





あとがき
初のスタルー。やりたいことが多すぎて、色々はしょった部分もあったんですが、やっぱりサイズが大きくなってしまいました。26キロバイトwww普段書いてるの8キロくらいなんですけどね。いやぁ、何と言うか、恥ずかしいです。