「すまないが・・・もう一度言ってくれないか?」
聞き間違いであることを祈りつつ、リトラーは聞き返した。 ショックで倒れないように後ろ手を机に突き、深呼吸をする。 そして、気持ちを落ち着かせてまっすぐに、見詰める。
目の前には、少年が一人。 いや、もう半分は青年と言っても良いかも知れない。 背丈も私の目の高さまであるし、表情にも幼さは微塵も無い。
「もう一度・・・ですね?」
どうやら困ったことに決意は固いらしい。 見詰める私を、真っ直ぐにしっかりと睨み返してくる。
実を言うと、もう一度聞くのは辛い。 逃げ出したくなりながらも、どうにかそれを抑えた。 逃げ出すと言うことは、婉曲的な肯定になってしまう。
「抱いてください。」
眩暈がした。 私の頭が変になっていなければ、彼はまだ十六歳。 しかし、裏を返せばもう十六歳。 自分の言っている意味は分かっているのであろう。 頭が・・・・痛い。
倒れそうになるのを、机に寄りかかり如何にか支えた。 痛い頭で、引き算すると彼は私より二十一も下の計算になる。
そう、私は悲しいことにもう三十七、誰がどう見たって良い歳した大人だ。 そんな良い歳した大人が、半分も生きていない子供を抱けるものか。 それが自分の養い子となれば、なおさらに。
「貴方が好きなんです。私では、ダメなんですか?」
切なげなアメジストの瞳。 そんな目をしてねだるようなマネを何処で覚えたのか。 しかし、そう育ってしまったからには私の責任なのだろう。 そうなれば、なおさら受け入れることは出来ない。
私は、ゆっくりと彼の肩を掴む。 唐突なことで、微かに彼の体が強張った。
「良く聞いて欲しい。」
私の顔が映る彼の目を、真剣に見た。 吸い込まれてしまいそうで、流されてしまいそうで緊張が走る。 でも、此処は親として退けない。 彼が頷くのを確認してから、私は口を開いた。
「落ち着いてもっと考えなさい。君はまだ先が長い。」
私が言うのを黙って聞いている彼だが、納得の様子はない。 少し機嫌悪そうに、目の端を吊り上げている。 そして、ちょっとキツめに私を睨むのだ。
困ったなぁ・・・・・。 心の中で、私は溜息をついた。 何を隠そう私は、こんな事でドキドキしてしまう困った親なのだ。
「良いかな、一時の感情に・・・・。」
「丸一年考えました。」
少し、棘のある彼の割り込み。 言い含めようとした私の台詞に、強引に被せて打ち消した。 いよいよ、まずい。 私は彼を宥めつつ、自分を保たなくてはならないのだ。
「ダメだ。」
やはり、親代わりとしては退けない所だ。 彼を抱いてしまっては、助けられなかった彼らの両親に申し訳が立たない。 懇願するように私は、彼の肩を強く握った。
「私じゃ、嫌なんですか?」
さっきの台詞をまた繰り返す。 なんてずるい子供だろうか。 道行く人が振り返る程の美貌の彼で、不足な者が居るはずがない。 その点に関して言えば、私も・・・・・同じ。
彼にとっては性別だろうと、年齢だろうと、何も障害に感じないに違いない。 しかし、保護者としてはそうはいかない。 彼を誰より大切に思う者として、彼に触れることは出来ない。
「そうじゃない。」
「じゃあ、どうしてなんです?」
彼の頭は、私より遥かに良く切れる。 なのに彼は理解しようとしないのだ、私の気持ちを。
私の腕に縋る彼を、つい乱暴に突き飛ばした。 壁に背を打ち、なお彼は私から目を逸らさない。 その純粋な視線が胸に突き刺さる。
「どうして分からない。」
その視線を振り払うように、怒鳴る。 怒鳴ってしまって、それから後悔した。 いつも私の言う事を良く聞く彼を怒鳴るのは、初めてだったから。
彼は黙ったまま頭を下げ、部屋を出て行く。
私は、後悔の念と二人きりで残された。
一日、二日、三日経っても、彼は帰ってこなかった。 ハロルドにも、連絡は無いという。
そんなことなら、駄々を捏ねるぐらいの方が良かった。 そうやって、頭の良いいじけ方をされるのが一番困る。 そんな四日目の夜、電話が鳴った。
電話の相手はイクティノス。 いつもの通り淡々と、彼は自分の部屋に彼が居ることを話した。
「すまん、今迎えに・・・。」
「いえ、心配されてると思ってご連絡しただけですから。」
・・・・何? つまり、イクティノスは彼を返す気が無いらしい。 驚きの声を漏らす私を尻目に、話は続く。
「四日も居られると、そろそろ私も理性が効かなくなっていまして。」
「えっ・・・・。」
「彼も別に良いらしいので。と言うわけで、まぁご心配な・・・。」
叩きつけるように電話を切った。 そして、飛び出すように部屋を出た。 脇目も振らず、一目散にイクティノスの部屋へ。
夜の廊下に、私の足音だけが響く。 擦れ違った警備兵が、怪訝な表情で私を見ていた。 そんなものは気にならない。
ドアには、鍵がかかっていた。 血が滲むほど握りこんだ拳で二、三度ノックする。 返事は無い。
私は、躊躇いもなく腰の剣に手を掛けると、抜き打ちに扉を斬り破った。 音もなく十文字に裂かれた扉は、騒々しく破れて崩れる。 何の気色も見せず、私は部屋へ踏み込んだ。
「おや。」
薄い笑みを浮かべたイクティノスが振り返る。 その肩越しに、ベッドに組み敷かれた彼が居る。 それも、上着を肌蹴させられた姿で。
無言でイクティノスを押し退け、彼の腕を掴んで強引に抱き起こす。 空ろな目の彼は、腕の痛みに顔を顰めた。
「何のおつもりですか?」
私の前にイクティノスが立ちはだかる。 表情だけ笑って、目は氷のように冷たい。 私は何も言わなかった。
「彼の気持ちも考えずに、何かあったら親の顔をするんですね。」
イクティノスは白い綺麗な手で私の胸倉を掴んだ。 思いの外の力で、私を引き寄せ冷たい目で睨む。 その手を振りほどいて、私は部屋を去ろうとする。
「私は子供を迎えに来ただけだ。」
「そうやって家族面して逃げるわけですね。」
機械のような抑揚の無い声。 伸ばした手が、彼の肩に触れる。 その手を振り解くと同時に、私の剣はイクティノスの眉間へ向いた。
「邪魔だ。」
理性を無くしたまま、私は彼を連れ帰った。 奪ってきたと言う方が正しいかもしれないと言うぐらいの、強引なやり方で。
「服を着なさい。」
彼を椅子に座らせ、目を合わせないまま私は命じた。 相当、怖かったのだろう、彼は一言も喋らずに服の釦を留め出した。 怖かったのは、多分私の方だったのだろうが・・・・。
私は上着を脱ぎ、剣をベルトごと机に放った。 そして、少し離れた場所で私も腰を下ろした。 無論、目は合わせない。
「・・・私は。」
自分の声の苛立ちに気がついた。 先程の怒りがまだ残っているのか、それとも怒りは自分自身へか。 分からないまま、口を開く。
「君が好きだ。親子とか、家族とか、そういうものじゃなくて。」
言い放ってから、頭を抱えた。 言ってしまったと、自分を責める。
言いたくなかったんだ。 彼と居られなくなるのが怖くて。 家族が出来た喜びの他は、気がつかないようにしていたんだ。
それなのに、彼は・・・・。
「君が孤児でさえなければ私は・・・・。」
気がつかない振りは効かなくなっていった。 彼が、自分に好意を持っているのは薄々感づいていた。 だから、私が彼の保護者でさえなければ・・・。 この歳になってそんな淫夢ばかり見ていた。
「どうして・・・・どうして、私を好きになんかなるんだ。」
涙声だったのが、堪らなく悔しい。 大人気ないし、子供相手にみっともないし。 結局親としてなんか接せられていない。 イクティノスの言うとおりだった。
そんな情け無い私に彼は歩み寄る。 泣き顔が恥ずかしくて、顔が上げられない。
「君の親になんて、私はなれなかった。」
声を絞り出す私を、彼はそっと肩に埋めた。 応えるように、私は腕の力を込めて彼を抱きしめる。 「ごめん」と掠れ声で言う私に、彼の澄んだ声が返ってきた。 私なんかより、ずっと芯のしっかりした声で。
「親も、保護者も、欲しくありません。・・・ただ、貴方が欲しい。」
言い切って、彼はそっと耳元に口を寄せる。 微かな声で一言。 「抱いて下さい」と彼は囁いた。
彼を抱きしめる腕に、さらに力が込められた。
今、腕の中にある。 手を伸ばす勇気の無かった、私の大切な物が。
「・・リトラーさん・・・・・。」
私が何処かに触れるたびに、切なげに呼ぶ声がこだまする。 その声は背筋をなぞられるような、ゾクリとする響きだった。 言葉を発した唇が、半開きのままで震えている。
それを塞ぐように、私は唇を重ねた。 唾液も、空気も、全てを混ぜ合わせるキス。 彼の腕が私の首に回り、必死で縋りつく。
その一挙一動が、堪らなく私を惹きつけて溺れさせた。 愛おしい彼の体を、そっと開いた手で撫でる。 均衡の取れた、細身の肢体。 その隅から隅まで、誰よりも知っている存在になりたい。
「・・・綺麗。」
呟いて少し薄めな胸板に舌を這わすと、急な感覚に彼は震えた。 両方の突起を甘噛みされ、痛みとともに電流が下半身へと抜けていく。
手の方は胸から離れて下へと伸びる。 厚手のズボンの上からでも膨らみは十分判り、酷く煽情的な光景を作り出していた。 それを見詰められ、彼の顔が一気に上気する。
「イクティノスには、何をされた?」
薄く微笑んで尋ねると、彼は首を振る。 黙っていると、喋らせたくなる。 私を壊してしまった彼を、私は壊してやる。 誰にも渡しはしない。
喋る様子が無いので、体に聞いてやる。 服越しに内股をそっと触り、首筋にキスを落とす。 意思の強そうな大きな瞳が、微かに震えて潤んだ。 しかし、彼は必死に耐えている。
「こんな所も触らせたのか?」
赤く立った胸の突起を、少し強く摘んでやる。 彼は激しく身を震わせ、抑えていた声が微かに漏れた。
「やぁっ・・・違・・い・・・・ます・・・。」
必死に助けを求めるように、私の首に腕を回す。 しかし潤んだ目は、決して私から逸らさない。 そして、その目からも決して涙は落とさない。
また、私の回線が一つ切れてしまった。 彼の肩を抱いて、半ば強引に彼の下を露にする。 全く、こんな堪え性の無い事ではどちらが初めてやら分からない。 頭の片隅で自分の愚かしさを笑いながら彼の下半身に顔を寄せる。
「・・・あっ・・・・きた・・・な・・い・・・・・。」
胸の刺激と、キスだけで彼のそれは立ち上がっている。 舌先で軽く舐めてやると、しなやかな脚の筋肉が硬直するのが伝わった。 舐めたりしゃぶったりしているうちに、ひくつく後孔が視界に入った。 微かに緊張が、走る。
実を言うと、抱く側に回るのは初めてだった。 抱かれる側なら、まぁ・・・・何度か。
痛かろうと、多少心配になりながらも私は指を後孔に沈める。 唾液を絡ませ、ゆっくりと指を進めるとブルブルと彼の体が震えた。 そして同時に困惑を含んだ、異物感に息を呑む音。
「・・・はっ・・・ひっぃ。」
再び彼を咥えてやると、意識の分散で後ろが緩む。 ぐっと突き入れると、人差し指が根元まで入り弓なりに彼の背が反った。 それでも、彼は涙を零さないし声も出さない。 じっと、そして必死に我慢している。
指先で奥を押すと、内側の刺激に耐えるように彼はシーツを握り締めた。 知ってはいたが、彼は強情で我慢強い。 恥ずかしいのか、必死に耐え続けている。
「口を・・・放し・・・て、下さ・・い。」
「良いんだよ、出して。」
その姿は、堪らなく愛しい。 同時にそれを壊したくなる、汚したくなる。 汚れをつけて、傷をつけて、他人が手を出せなくしたくなる。
もう一度、彼の奥を指で強く押した。 痙攣する彼を上目で見ながら、私は指を急に強引に抉るように引き抜いた。
「くぁっ・・・・あぁっ・・・んっあぁん。」
ついに堪えきれなくなって、甲高い声を上げながら彼は果てた。 吐き出された精を、一滴残らず吸い上げて彼の見る前で飲み下す。 艶っぽく口を半開きに開けた顔が、微かに恥ずかしげに背けられた。
「ここまでにしようか?」
やっと余裕のある笑顔を見せて、彼に尋ねることが出来た。 今まで夢中で、彼の無理は考えられていなかったと言うのが正直なところ。 まだ余韻に震えている彼を、そっと抱きしめたやった。
彼はそっと私を押し返して、じっと私の顔を見る。 快感に濡れた瞳は、相変わらず澄み切っていて美しい。
突然彼は、私の顎を掬って唇を強引に奪った。 油断していた私は、されるがままで彼のキスを受ける。 今までとは逆に、こちらがくらくらしてしまう。 本当に恐ろしい子だ。
「続けてください、最後まで。」
色っぽく潤んだ声で言われると、背筋がゾクゾクした。 そして促されるまま、彼の後孔に手を伸ばす。 先程までで十分に解された其処は、苦もなく私の指を受け入れた。
「ふっ・・・・くっん・・・。」
快感の波に耐えるように、私の肩に縋りつく。 指をもう一本増やすと、彼はさらに苦悶の表情を浮かべて身体を硬直させた。 しかし、その苦しみを出すまいと健気に声を抑えている。
「良いかい?」
震えながら、彼は如何にか首を縦に振った。 流石に緊張するらしく、肩を掴む手に力が入っていた。 私は苦しくないように、後ろから彼を抱きかかえた。
「力抜いて。」
抱きかかえた彼を、そっと下ろしながら彼と繋がる。 強い抵抗を感じる度、自分の初体験を思い出した。 彼と違って、随分喚いたものだ。
「痛くない?」
薄っすらと額に汗ばみ、彼は首を縦に振る。 強い圧迫感があるのだろう、微かに声を挙げながら背が震えていた。
半ばまで入って、私は思い出したかのように彼の中心を撫でる。 放って置かれた所為で、油断していたのか、彼は甲高い声を挙げて仰け反った。 その勢いも余って、一気に奥まで沈めてしまう。 結局、堪え性の無いのは私の方。
縋るものもなく、揺られるだけになってしまった彼を強く抱きしめた。 狂ったように動き、それでも彼は涙を零さない。
私は彼の心配など出来なくなり、ただ求めた。 細い彼の身体を、折れんばかりに抱きしめた。
「はぁっあうっ、あっ・・・あう・・・・・あ・・・・うっ。」
耐え切れなくなり、彼はゾクゾクと身を震わせる。 酸素が足りず、声も出せない。
一際大きく震えた後。 一層大きく仰け反った。 そして、ある限りの欲望を吐きつくし、ぐったりと彼は倒れた。
「困ったなぁ。」
私は眠ってしまった彼を見て呟く。 穢れない寝顔が、済んだばかりの情欲を再び掻き立てた。
これからも、彼とは同じ部屋で隣のベッド。 二人っきりの時間は、長すぎるほどに長い。 これから、また悩みが増えそうだ。
再び、綺麗な寝顔に見入る。
再び、重い溜息が一つ。
そして、満足げな寝息が一つ。
「名演技でしたね。」
褒められてイクティノスが得意げに笑った。 「彼」もクスクスと笑い返す。
やはり、彼の育ての親は・・・今は微妙な位置だが・・・は人が良い。 怖い子だ、とイクティノスは思った。
「この貸しは大きいよ・・・・・カーレル君?」
大きな瞳を湛えた目を、悪戯っぽく細めて、彼・・・カーレル=ベルセリオスは笑った。
あとがき 15kb・・・未曾有のダラダラだった。 やっぱりリトラーは受けキャラらしい。 カーレルとリトラーの絡みが見たい方は「或る、古い映画の一幕 」にどうぞ。 あっちも10kあるけど。
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