「えーっと、砲弾の発射角が・・・。」
勉強中。 シャルティエは物理が少し、いや相当苦手な様子。 まぁ、数学も苦手だから理系がダメなのかな? 生物は結構得意みたいだけど、生物が出来てもねぇ。 あんまり軍人には役に立たないし。
「16式の砲身は18式と長さが違うから注意するんだよ。」
「あぁっ、そういえば。」
物覚えもイマイチ。 んー、賢そうな雰囲気なんだけどね。 どっちかと言うと体で憶えるタイプらしい。 基礎を頭に入れたら砲兵科に預けた方が早いかも知れない。
「そうそう、それで計算すれば良いんじゃないかな。」
「あっ、はい。んーっと。」
火砲運用の資格が取りたいと言い出したのが一週間前。 実際、情報部は砲兵出身が少ないので助かる。 色々知っている者が居た方が分析は効率が良い。
「そうそう、それで正解。」
赤ペンで丸をつけてやると、ニコッと笑う。 出来は良いとは言えないが熱心だ。 いつもこの子は健気で、時々申し訳ない気持ちにもなる。 今回も、きっと何かで立ち聞きでもしたのだろう。 いつも私の事を考えてくれて・・・あっ、ちょっと自意識過剰?
「・・・・・あの。」
シャルティエが問題に目を落としたまま手を止めた。 分からない所があっただろうか? 私はシャルティエが解き掛けの問題に目をやる。
「あっ、いえ、問題が分からなかった訳じゃなくて。」
シャルティエはそう言うと、また問題を解き始めた。 何だったのか、私にはイマイチ分からない。 彼の言う通り分からなかった訳ではないようだ。 解きかけだった問題はサッサと正解が出されていた。
何だろう? 疑問を感じながらシャルティエの横顔を見詰める。 すると、また手が止まった。 そしてノートや操典を片付け始める。
「少将、すみません。僕、一人で勉強します。」
「・・・えっ?」
何か気に障ることをしただろうか? いや、そんな憶えは無いけれど。 今日は別に疲れてたり、不機嫌だったりしなかった筈だし。 えっと・・・えっ?何で?
「ワザワザお時間を割いて頂いて、ありがとうございました。」
ぺこりと小さな頭を下げる。 片付けたノート類は小脇に抱えて。
「えっ、ちょっと待ちなさい、シャルティエ。」
そのまま出て行こうとするシャルティエを呼び止める。 私としても納得がいかないし、悪かったなら謝りたい。 放って置くとナカナカ自分から話さない子だから。
「その・・・私の教え方が良くなかったかな?」
シャルティエは俯いたまま首を振った。 そして、小声で「ごめんなさい」と呟く。 ますます分からなくなってしまった。
「僕が悪いんです。」
「いや、それだけ言われても分からないよ。」
俯いて押し黙ってしまった。 そのうち泣き出すんじゃ無いだろうか。 それは困る、もっと困る。
「理由を言ってくれないと分からないんだけれど。」
「・・・・・ごめんなさい。」
埒が明かない。 思わず、溜息を吐いてしまった。 そして、その後「しまった」と思った。 シャルティエの目が潤んでいた。
「すまない。」
「・・・いえ、僕が悪いんです。僕が・・・。」
涙を拭く彼を優しく抱き止める。 彼は、やっと自分から話し出してくれた。
「僕が、変な気分になるのが悪いんです。」
「変な気分?」
「・・・・・・。」
沈黙。 一旦離れて、彼の顔を見詰める。 ・・・赤い。
「・・・・・・あっ。」
私が察したのをシャルティエは気付いたらしい。 ますます顔を赤くして俯いた。
「少将が貴重な時間を割いて下さってるのに、僕は、その・・・。」
「あー、いや、もう良いもう良い。・・・悪かったね。」
彼の言うのはもっともだ。 そう言えば彼此、半月も何もしていない。 彼はまだ17歳で、33歳の私とは体と頭の構造から違うのだし。
そもそも、彼にそういう事を仕込んだのは私だ。 だったら私にはちゃんとその辺をどうにかする責任がある。 それをすっかり忘れていた。
「・・・あの、少将?」
シャルティエが半分俯いた上目遣いで見上げてくる。 困った顔をしているつもりなのだろう。 どうしても嗜虐心がそそられてしまう辺り、私は酷い大人だ。
「おいで。」
「あっ、はい。」
抱き寄せて、細い身体を確認する。 優しく肩を撫でると、少し驚いたのか体が揺れた。 慣れている筈なのにいつも初々しい。
「勉強中なのに甘えたくなったんだ。」
「・・・・はい。」
耳元で囁くと、真っ赤になりながら頷く。 その様子に愛しくなって、再び抱き締めた。 シャルティエはまだ、困惑気味の様子。
「気付けなくてすまなかったね。」
「あっ・・・いえ、あの。」
「何?」
「甘えても、良いんですか?」
返事の代わりに優しく額にキスを落とす。 シャルティエの表情が綻んだ。
真面目過ぎる恋人は、やっと私の背に腕を回す。
後書き
久々です。 難しいです。 てか、シャルティエ? 話ごとに性格違うんですよねー。 多重人格なんじゃないかな? 今回は何か、したい盛りだからって話ですけど。 ネタ元は彼氏に勉強を教わっていた彼女さんから聞いた話。 「彼氏が近くに居ると落ち着けない」そうで。 いや、勉強止めて何したかは聞かなかったけど。(笑)
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