カチッ。
フリントの打撃音。 薄暗い部屋に小さな青い焔が燈る。
焔に薄ぼんやり浮かび上がる彼の顔。 影の入った横顔は、有機物には不自然なほど整っていた。 背筋が震えるほどの美貌とはこういうのの事だろう。
私の視線に気がついて、彼が此方を見た。 笑いかけるその表情に、先程までさんざん抱かれていた身体が疼く。 それに気がついて、羞恥が沸いて少し顔が赤くなった気がした。
「30過ぎても、そんなイイ顔できるんですね。」
そんな物欲しげな顔をしていたかと、自分でも驚いてしまって顔を背けた。 彼の思う壺で、身体が熱くなってくる。 悔しくて、キッと彼の顔を睨みつけた。
睨みつけた・・・が、その睨む相手の顔は思ったよりずっと近くて。 顔を上げた瞬間、一文字に結んでいた唇を奪われてしまった。
「凄く甘い。」
そんな訳あるかと、唇を拭って彼を再び睨む。 正直、遊ばれっ放しは性に合わないタチ。 剃刀、なんて呼ばれているが私は案外感情的で単純な男だ。
「もう一度?」
尋ねる彼の顔に、いい加減にしろと枕を投げてやった。 低い音を立てて、私の放った枕は彼の顔に見事命中する。
ちょっと得意になって彼の様子を眺めていると、自分の顔にぶつかった枕を彼は見詰めていた。 そして、ちょっと顔を上げて私を一瞥する。 その余りに静かな様子が逆に怖いかもしれない。
「可愛いなぁ、もう。」
何が可愛い、だ。 貴方と違って若くはないんだぞ、こっちは。 もう33で、この若い天才軍師様よりは10も上。 それを捕まえて、この男は可愛いとのたまった。
「可愛いのが良ければ、他を当たって下さい。」
そう言って、そっぽを向く。 流石に此処で「はいそうですか」と言うほど情のない男ではないだろう。 でも、なかなか返事が来ないから心配になって顔を上げた。
上げた顔をぐっと掴まれて引き寄せられる。 そしてそのまま、奴の胸の中に収められてしまった。
「私は可愛いのが好きなんじゃなくて、可愛い貴方が好きなんですよ。」
抱きとめられた頭上で、さらりと可愛いが連呼される。 良くもまぁ、心にもない事が言えたものだと驚いてしまった。 その心にもない言葉に、そうだと分かりつつ騙される私も私だが。
勿論、私だってこんな男に好いた惚れたと言われれば嬉しくないはずがない。 30過ぎてたって、少しばかりクラッともなってしまうさ。 リトラー司令も同じ手でやられたんでしょうかね。 そうでしょうね、あの人は私よりもっと人が良いからなぁ。
「どうしました?」
どうしましたじゃない。 こっちは気を紛らわせるので忙しい。 この密着した体勢と言い、貴方の声と言い、年甲斐もなくやりたくなるだろ。 こっちは歳なんだから、もう一頑張りなんて出来るわけがない。 貴方にさんざんやられて、もういい加減へとへとなんですよ。
内心で悪態をついて、目を逸らそうと顔を彼の胸に埋める。 23歳の若きエリートかぁ、女やら男やら山ほど言い寄ってくるんだろうなぁ。 まぁ、私だってあったけどね、そういう時期も少しぐらいは。 あー、でも私はその頃から子連れだったしなぁ。
「良く飽きないですね、私に。」
目を合わせないまま、ちょっとキツめに言ってやる。
一応ただ転がされてる馬鹿じゃないと、理解されないといけない。 安っぽい話だけど、私の沽券に関わるって言うか、私の気が済まないって言うか。
「全然飽きませんよ。」
顎を引かれて、目を合わせられた。 鼻が当たるぐらいの目の前に、にっこり笑った彼の顔。 こうやって何でもなく嘘つくのは教育の所為だなと、司令を恨む。
と言うか、飽きませんよじゃない。 早い話が、何で飽きないのか聞きたいんですよ。 だって可笑しいでしょう、選り取り見取り幾らでも相手はいるのに私を抱くってのは。
「私を嫌っているところとか、私はとても好きですよ。」
はぁ?とか声も出ない。 この天才軍師様は相当鈍い。 もう10年以上の付き合いになるがつくづく思った。 いつ私が貴方を嫌っていると言いました? 言っていないでしょう?
・・・・あっ、言ったかもしれないな。 随分前に一回ぐらいは言ったかもしれない。 いやでも、それよりは間違いなく無理に「好き」と言わされた事の方が多いわけで。 いくら無理やりとは言っても、私だって嫌いな相手に「好き」とは言えないし。
あー、もう、だからそういうことなんですよ。
「どうしました?」
呆れ顔をしていた私に、彼が尋ねる。 いっそ誤解を解いて、綺麗な言葉の一つも吐いて差し上げようかと思ったが止めた。 そしたら結局、彼の思う壺になってしまうじゃないか。 それはそれで、随分と癪な話だ。
じゃあ、どうしようか。 そうだな、情事の最中にでも言ってやろう。 何度も何度も耳元で囁いてやろう。 それで、翌日目が覚めた時には知らない振りをしてやる。 貴方なんか好きじゃない、って顔をしてやる。
それで、少しでも彼が焦れたら気味が良い。 素敵な話じゃないか。 これほどの男を焦らせるだけのチャンスがある人間はそうそういないだろう。
「何か、楽しいことでもありました?」
不思議そうに彼が問う。 不思議そうに、でも嬉しそうに。
「別に。」
慌てて緩んだ顔を戻す。 私のその様子を見て、楽しげに彼が微笑んだ。 良くもまぁ、こんなに四六時中笑っていられる物だと感心する。 いや、寒心するの間違いかもしれませんね。
「いっつも笑ってますけど、何がそんなに楽しいんですか?」
試しに尋ねてみた。 ちょっと皮肉っぽかったかなと、少し反省する。 尋ねられて、彼はしばらく考え込む。 急に笑顔が消えて、真面目な顔になった。 その顔がまた、物凄くクる。
「そんな事ないよ。君といるからこんなにニコニコしてるんだ。」
どれくらい使い古したんだろう、その台詞。 そして、その付属の輝くばかりの良い笑顔も。 心にもないくせに、随分と上手い芝居だと呆れてしまう。
でも、いつかそれを私だけに言わせて見せる。 私だけに笑顔を向けさせる。
そんな野望を抱いて。
そんな野望を言い訳にして。
結局は、遊びでも、暇つぶしでも。
彼が、私と居てくれるのが嬉しいんだ。
解説&あとがき イクシャルを全面無視して、カー←イクですね。 <どうやら、カー君は相当なプレイボーイっぽいです。 お互い、遊びだと理解の上の話ですが、実は本心では相思相愛みたいな。 好きだよなぁ、実は相思相愛ネタ。 愛がないとダメってのは、幅を狭くするよなぁ。 てか、ハロルド出すの忘れた。 ハロファンの皆ごめん。ハロ&カーでイクティを取り合うはずが・・・。 次どうしようか、予告すると碌なことにならないからやめとこうかな。 てか、プロットぐらい作ろうぜ俺。 もういい加減一発書きは卒業しなければ・・・。
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