「無塩バター120gをクリーム状に練る。」
「うむ。」
「あんま力むなよ。」
「慣れてないからな。」
「だろうなぁ。」


3月半ば。
女性に恨みを買わないように男性が努力する日。
我々も災難を避けるべく鋭意努力中。


「粉糖80gを篩って加える。」
「何で篩うんだろうな。」
「混ざりやすいからじゃねーの?」
「なるほど。」


混ぜる手を止めて、積もる砂糖を眺める。
案外沢山入るんだな、砂糖。
そんな事を思いつつ、慎重に篩いを叩くノリスに視線を移した。
割合に器用な奴だけど、菓子作りは苦手らしい。
計量が嫌いな大雑把な性格だからだろうな。


「次、全卵一個。」
「溶いてから?」
「そ。3回に分けて少しづつな。」
「了解。」


私は卵を片手で割れる。
これは、ちょっとした自慢。
差し出されたボールに割り入れると、手際良く混ぜられる。
卵焼きが得意な彼にとってはお手の物かな。


「薄力粉が250g。」
「結構多いんだな。」
「お前返す相手多いだろ?」
「あー、まぁ。」


再び篩。
生地作りはこれで終り。
計量も含めてまだ15分、二人でやってると案外早く進むな。
それに、何と言うか、共同作業みたいな感じで楽しい。


「よし、混ぜろ。」
「切るように?」
「切るように。」
「こうか?」
「どうだろ?貸してみ。」
「同じじゃないか。」
「じゃ、それで正しいってことだ。」
「んー?」


良いな、こういうの。
学生時代みたいな感じで。
いや、その頃よりも今の方が彼との距離は近いな。
とにかく、落ち着くというか馴染むというか。


「零れそうだぞ、集中しろ。」
「あっ、すまん。」
「混ざったら次行くぞ。」


生地は一旦休ませて、コーティングのキャラメル作り。
小鍋に砂糖150g、蜂蜜40g、水40ccを入れて加熱する。
火元は慣れているノリスの担当、私は計量。


「生クリームを95g。」
「ああ。軽く温めといてくれ。」
「分かった。それとバターが40g。」


鍋の中身が沸き立ってきつね色に変わった。
部屋中に甘い良い香りが広がっていく。
そこに生クリームとバターを加えて、もう一煮立ち。


「スライスアーモンドが120g。」
「混ぜて合わせたら火を止めて、っと。オーブンは?」
「180度にしてある。」
「じゃ、生地焼くかな。」


生地の下焼きは15分。
アーモンドキャラメルを乗せて20分。
焼き上がるのを待っている時間が35分ある。
二人で、隣り合ってソファーに腰掛けた。


「意外と楽しいな。」
「ん、俺も思った。これで成功してたら良いんだけど。」
「失敗したらノリスの適当な計量のせいだな。」
「ちげーよ、お前の混ぜ方だって。集中してなかったし。」
「いや、集中してなかった訳じゃ・・・。」
「どうせ、のんびり出来て幸せだなとか思ってたんだろ。」


図星。
お見通しな辺りが悔しい。
反面、ノリスの上機嫌な笑顔がまた嬉しい。
馬鹿だなぁ、私は。


「ほら、そろそろ焼けるぞ。」


下焼き終了を告げるアラームがけたたましく鳴り響いた。
会話を打ち切って、慌ててオーブンへ駆けていく。


「上手く焼けたか?」
「どーれ。」


オーブンを開けると山吹色に焼けた生地が出てきた。
見る限り、予定通りの出来ではなかろうか。
これに先程のアーモンドキャラメルをかけて、もう一焼き20分。
ノリスは鍋底に残ったキャラメルを指で刮げていた。


「悪くないな。」
「行儀が悪いぞ。」
「だって勿体無いだろ。」
「あー、まぁ。」
「ほら、お前も味見。」


彼の器用な人差し指は口には行かず、私の方へ向いた。
甘そうなキャラメルが蕩けて指先に絡んでいた。
私の口に近付くうちに、キャラメルは掌へ伝っていく。


「・・・・・・・・全く。」


呟くと唇に指が触れ、そのまま受け容れる。
手首を掴んで引き寄せてから、掌まで綺麗に舐め取った。
その間、彼はずっと黙って私を見詰めて満足げに微笑んでいた。
勿論私はすっかりその気になっている。


「暑い?」
「・・・暑い。」
「やらしい顔してんじゃねーよ。」
「うるさい。お前のせいだ。」


更に手首を引いて抱き寄せる。
絶え間なく頬に落とされるキスが心地良い。
身体が触れ合って、熱くなっているのが分かり紅潮する。
舐められて、ノリスも興奮したんだなと嬉しくてニヤけてしまった。


「笑うな、馬鹿。」
「その気じゃないような顔しているのに。」
「悪かったな、その気で。」
「私に欲情するなんて趣味が悪い。」
「人の好みにけちつけんな。」


口付けられて気持ちがフワフワと浮く。
甘い匂いで頭がおかしくなってしまいそうだ。
絡み合ったままソファーに倒れて、また口付けた。


短い20分になりそうな気がする。





























あとがき
まぁ、この辺で切っといて良いんじゃないですか?
多分、盛り上がって来た頃に20分。
でも結局、10分くらい長く焼いてしまうんじゃないでしょうか。
このお菓子は長めに焼いても大丈夫なので、ご心配なく。

BACK