・・・第四篇・・・
初めて会った息子の友人は、俺を殺しにきた男だった。
指揮官と思しき、その男がやってきたのは、ほんの五分ほど前。
地上軍がこの参謀本部へ総攻撃を開始して、15分後の事だった。
窓から外を見る。
両軍合わせ二万近い兵士達が街中に犇めき合い、血の雨を降らせていた。
階下からも、激しい戦闘の音が響き、この建物全体を揺らしていた。
「リトラーは戻ったか?」
一息、強く吹かしてウォーラは煙草を投げ捨てた。
尋ねる相手は、自分を殺しに来た一人の男。
その足元にはその男が斬り伏せた護衛が、積み上がっている。
その数八人。
何れも手練で勇猛果敢な天上兵士達だった。
その様子に眉一つ動かさず、仮面のような無表情でウォーラは男を見詰めている。
男の良く知っている、マリンブルーの瞳とは違った深い蒼の瞳で。
「あぁ、世話を掛けたな。」
男は少し長めの黒髪を掻き揚げて、微かに笑んだ。
下がった前髪の奥で、大きな漆黒の瞳がぎらぎらと輝いている。
それは、冷徹な殺人機械の眼。
抑揚の無いその声に、ウォーラは思わず微笑んだ。
20年前、天上で叛乱を起こした頃のミクトランに、目の前の男は何処か似ている。
顔色一つ変えないその様子も、射抜くようなその視線も。
「名は?」
「敵に名乗る名は無い。」
そう言いつつ、男は血に濡れた剣を拭っていた。
抜けと言いたげな顔で、相変わらずウォーラを睨んでいる。
ウォーラは剣に手さえ掛けない。
抜かない限り男は斬らないと、彼は分かっていたから。
「友人の父親にも・・・・?」
ウォーラは嗤った。
自分を嘲るような風に、声を上げて。
笑いながら、男の反応ををじっと見ていた。
男は、眉一つ動かさない。
「何だ・・・知っていたか。」
男は、初めて笑った。
目の前の敵の人の悪さが、少し可笑しかったらしい。
仕方なく、男は名乗った。
如何にも面倒そうな、そんな様子で。
「ノリス=カルナック・・・地上軍第一師団副長。」
ウォーラは満足そうに頷いた。
そして、一つ優しげな声で尋ねた。
其れは正に、我が子の友人に話しかける父親のような。
「何故、わざわざディムロスの副官を?」
意外な事を聞かれたようで、ノリスの表情は一瞬困惑に包まれた。
今まで、そんなことは聞かれた事が無かった。
暫くの沈黙の後、ノリスは口を開いた。
静かな単調な声で。
しかし、しっかりと心から。
「20年前、ミクトランがリトラーを誘ったのと・・・似たようなものだ。」
少し間があって、ウォーラは理解したらしく頷いた。
厄介なのに惚れられたものだ、と20年来会った事の無い息子を思う。
多分、達者にやっているのだろうと何処か彼は安心した。
気が済んだのか、ウォーラは剣を抜いた。
重く鈍く光る、重厚な広刃の剣。
歴戦の猛者であるこの男に、良く似合った得物だった。
「時間も、無かろう?」
ウォーラはまた笑った。
ぎらぎらと蒼色の眼を輝かせて、それはもう天空の猛禽のように。
外で、轟音が鳴り響いた。
雷鳴のような、地響きのような、そんな激しい音と震動。
爆風が窓を割った。
散った硝子が宙に舞い、陽の光に煌き踊る。
風が吹いた。
天上に吹く北風は、血の匂いのする風だった。
「まぁな。」
先に斬り掛かったのは、ノリスの方だった。
梟爪と恐れられた彼の刃は、ウォーラの白い首筋を薙ごうと空を切る。
陽光の中、ぶつかる刃が火花を散らす。
鍔迫り合いで迫った二人の顔には、何故か笑みが浮かんでいた。
また、風が吹く。
紅い雨の中、血の香を運び風が吹く。
次は、誰の血が風に乗って吹くのだろう。
あとがき
こっちもですね、どっちを死なすか画策中です。
相討ちで、二人で煙草吹かしながら死ぬのも素敵かなぁ・・・・。
そうそう、現在天上劣勢です。
地上の本隊が中央地区の参謀本部にまで迫っています。
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