陽と月
或る夜。地上軍本部基地第一師団長私室・・・・
「・・・・くっ・・あぁっ・・・あんっ・・・」
質素なベッドの軋む音と押し殺した喘ぎ声。
声の主、ディムロス=ティンバーは蒼い長髪を振り乱し、必死に声を抑えていた。
「ディムロス、出せよ声。」
そう言って冷たい手でディムロスの整った顔を撫でるのは、ノリス=カルナック。
その意外にも優しな声が、彼らしくないと言えばその通りだった。
「やんっ・・・隣・・に、聞こ・・あっ・・・える・・。」
自らの両手で押さえられたディムロスの口から、嬌声が洩れ出る。
身体を固くし、快感の波に耐えていた。
ノリスはそんなディムロスの案外細い腰に腕を回す。
優しく抱き寄せられ、互いの唇がそっと触れ合う。
「あっ、くっ・・・ノ・・リス・・・・・もっ・・・。」
目の前の黒髪の青年の名を呼びながら、ディムロスは身を反らす。
全身の筋肉が収縮し、それ合わせて内部のノリスは強く締め付けられた。
「・・・こ・・壊れ・・・やっ・・・。」
生理的な涙が流れ、ディムロスは頬を濡らした。
白い肌を伝う澄んだ雫を、ノリスがざらつく舌でそっと舐め取る。
何かの力で引かれるかのように、ディムロスの引き締まった腕がノリスの細い首に回された。
狭く質素な部屋に、安物のベッドが軋む音が一層高く、激しく響く。
それをかき消す程の、基地全体に響くのではないかと思うほどの嬌声が響き渡った。
極限まで収縮した身体が一息に緩み、ディムロスは糸の切れた人形のように、ベッドに沈んだ。
・・・いつからだっただろうか。
二人が、只の親友で、只の戦友だった二人が、身体を重ねるようになったのは・・・。
二人の関係の始まりは、ディムロスが初めて部隊を任された頃だった。
そう、今を去る事6年前。
雪が激しく、身を切るような寒さの日だった。
3メートル先も見えない雪原を、精悍な姿の青年達が歩いていた。
先頭の青年は蒼い長髪を吹雪に靡かせつつ、後ろを気にしながら一歩一歩進んでいる。
「無事か!」
先頭の青年、ディムロス=ティンバーの、猛吹雪の轟音に負けない大声。
それに負けぬほどの力強い声で、部下達は応えた。
それが彼らの交わした最期の言葉。
部下の元気な返事が、ディムロスの耳に入るか、入らないかの時。
真っ白く霞んだ雪原の果てに、紅い閃光が迅った。
大気を切り裂き、吹雪を貫くような轟音。
音速で迫る金属片がディムロスの耳元を掠め、蒼髪を焦がす。
背筋が凍り、汗が吹き出た。
血飛沫が飛び散り、ディムロスの白い肌に紅い斑をつける。
高い叫び声とともに、眼前で1、2人と倒れた。
純白の雪が、一面鮮血に染まる。
「総員戦闘準備。怯むな、突撃!!!!」
呆然としていたディムロスを呼び覚ましたのは、後方からの怒声だった。
声の主は、列の最後尾に居た黒髪の青年、ノリス=カルナック。
即座に剣を抜き、彼は真っ先に駆け出した。
2度目の閃光。
高い風切り音。
唸るような炸裂音。
ディムロスの大きな瞳には、モノクロの背景に血の雨だけが紅く映っていた。
「ノリィィィィィィィィィィィィィィィィィス!!!!!」
細身の長剣がノリスの掌から抜け、積もった雪の中へ落ちる。
零れる大粒の紅い雫が、彼の軍靴の足元を染める。
崩れるようにノリスは倒れた。
戦死5名、重軽傷8名。
幸い、と言って良いのか分からないがノリスは軽傷だった。
しかしそれでも、ディムロスはひどく落ち込んでいた。
部下5名の死と言う事実が、彼自身の責任感と生真面目さが、彼を追い詰めていた。
ノリスは、黙ってディムロスを抱き締めた。
強引に唇を奪い、押し倒す。
ディムロスは拒まなかった。
お互いの身体は、自分と敵と味方の血の匂いがした。
流す度、殺す度に染み付いた血の匂い。
抱き合えばそれを忘れられた。
戦場に出る度、戦う度に身体を重ねる二人。
<傷の舐め合い>
人はそう言うかも知れない。
互いの血の匂いを、互いの血の匂いで紛らわすだなんて。
これは友情だろうか。
それとも愛情なのだろうか。
<無二の親友>
ディムロスはノリスをそう呼ぶ。
その度にノリスは、恥ずかしそうに、しかし少し寂しそうに笑うのだ。
ノリスは、何も語らない。自分の心を。
彼の感じていた想いは、10年来の友情でも、命を救われた恩でも無い。
しかし、彼は、何も語らない。
彼らは陽と月なのだ。
互いに追いかけ合いながら、その距離は縮まらない。
太陽は月を照らし、月は太陽の留守を守る。
互いに支えあいながら、触れ合えない。
「また、傷が増えたな。」
ベッドに横になったままのディムロスが、ノリスを見つめる。
裸の上半身に、上着だけ掛けた姿。
露出した肌には、無数の傷が痛ましく残っていた。
「お前だって、人のコト言えねェだろ。」
「確かに・・・な。」
身体をゆっくりと起こし、ディムロスは頷く。
塞がったばかりの傷が、彼の右腕に赤く痕を残している。
「すまないな。綺麗な身体で居てやれなくて。」
彼の冗談めいた言葉に、ノリスが呆れる。
ディムロスの笑顔はまるで穢れを知らぬ少年のようで、心を揺らした。
「・・・馬鹿。」
溜息をついて呟くと、ノリスは寝転んだままのディムロスに歩み寄った。
抱き寄せて優しくキスを落とす。
陽と月でもかまわない。ただ、傍に居られさえすれば。
一番近くに居るはずなのに、手を伸ばしても届かない。
時々振り返って微笑む後姿を追って、何処までも、何処までもついていくだけ。
「好き」と言えれば楽なのに、言葉が喉で詰まってしまう。
・・・・・深いキスは、むせ返るように甘い、血の味がした。
あとがき
何がしたいのか、旧作を書き直してみました。
ディム×ノリスを初めから書く時間が、今は無いのでございますよ。
すっごく微妙ですよね。
ディムロスの受けって、描写が苦しいんですよ。(汗)
あぁ〜、修行修行